🗓 2023年11月25日
吉海 直人
現在、日本で使われている硬貨は、みんな丸くなっていますね。江戸時代には長方形(一朱銀)や楕円(天保銭)もありましたが、明治以降は丸で統一されています。そのうち、五十円と五円には穴があいています。
穴あき硬貨(有孔貨幣)など普通にあると思っていたところ、世界中の硬貨を見まわしても、穴のあいた硬貨は現在ほとんど流通していないことがわかりました。そのため日本にやってきた外国人観光客は、穴あき硬貨をお土産として持ち帰るとのことです(安く済みます)。ただし五円玉には「5」というアラビア数字がありません。「五円」という漢数字だけなので、外国人にはその価値がわかりづらいとされています。これこそ異文化体験ですよね。
ところで日本の硬貨は古くから、というより最初から穴あきでした。歴史を遡ると、最古の富本銭や和同開珎も穴あきでした。ただしよく見ると、現在の穴は丸ですが、寛永通宝を含めて古い硬貨は四角い穴になっています。この形の違いの理由はご存知ですか。四角い穴になっているのには、ちゃんと理由がありました。
もともと日本の硬貨は、中国の硬貨を真似て作られました。その中国で穴のあいた硬貨が作られていたのです。ここで実験です。現在のような丸い穴に、丸い木を差し込んで回してみると、当然簡単に回りますよね。ところが四角い穴に四角い木を差し込むと、固定されて回りません。つまり、硬貨が回らないように四角くしているのです。それは硬貨を鋳造する際にできるバリを、まとめて削り落とす作業をやりやすくするためでした。回るとうまく削れないので、動かない四角が選ばれたというわけです。
もちろん現在の硬貨は打ち出しですから、バリなどはできません。丸い穴は硬貨を固定するためのものではないからなのです。昔は穴に紐を通して一まとめにしていました(銭形平次はご存知ですよね)が、今はそれもやっていません。むしろ穴の有無によって、他の硬貨と容易に区別できるという利点があります。五円玉を例にすると、昭和23年の最初の五円玉には穴がありませんでした。同年に発行された一円玉も黄銅で、大きさもほとんど変わりません。しかも両方ともギザつきでした。
これでは区別がつきにくいということで、翌24年以降、五円玉は穴あきになったのです(24年には穴なしと穴あきの両方があります)。要するに一円玉・十円玉と区別するために穴があけられたのです。それだけではありません。穴をあけることによって、硬貨の重さを軽くすることもできます。穴なしだと4gだったものが、穴あきにすると3.75gになりました。つまり穴の重量0.25g分軽くなったのです。これはかなり材料費の節約になります。
五円玉にはもう一つの大きな特徴があります。それは色です。一円玉・五十円玉・百円玉・五百円玉はみんな白色ですよね。それに対して十円玉は赤銅色で、五円玉は黄銅色になっています。これは戦後に大量に余っていた砲弾や薬莢を溶かして材料にした(再利用した)ことによるのだそうです。
一円玉も最初は黄銅でしたが、材料費が高騰したために昭和25年には製造を中止し、昭和28年をもって廃止されてしまいました。そして昭和30年に、あらためて材料費の安いアルミ製の一円玉が発行されたのです。五円玉にしても最近は原料費が高騰しており、いずれ五円を超えることが予測されています。ということは、近々五円という値段に見合った材料への変更が行われるかもしれません。
ところで五円玉のデザインを見てください。表には稲穂・歯車・水の三つが描かれています。これは産業をモチーフにした意匠だそうです。稲穂(27粒)は農業、歯車(16個)は工業、水(水平線12本)は水産業を表しています。また裏(元号のある面)に描かれている二葉は林業です。実は戦後の日本復興への思いが、この五円玉のデザインに込められていたのです。
ついでながら現行の五円硬貨は、デザインが変更になっています。すぐわかるのは昭和24年から昭和33年までの硬貨は、「五円」という文字が楷書体になっています。俗に「筆五」と称されているものです。それが34年以降はゴシック体になっています。もう一つ、裏の日本国の「国」が旧字体から新字体になっているので、是非手に取って見比べてみてください。余談ですが、昭和32年の五円玉は製造枚数が極めて少なかったことで、今では高価で売買されているそうです。財布の中の五円玉、調べてみてはいかがですか。
さて五円玉最大の特徴は、日本人特有の言語遊戯と絡んでいることです。もうおわかりかと思いますが、神社仏閣にお参りする際、御縁がありますようにと、あえて縁起のいい五円玉がお賽銭に用いられました。というより、最近はお賽銭以外に五円玉を使う機会はめっきり少なくなりましたね。自動販売機に使えないのですから、当然かもしれません。いずれ廃止される運命なのでしょうか。