🗓 2026年01月10日

吉海直人

みなさんはアイザック・ニュートンとリンゴの話はご存じですよね。お馴染みの物理学者ニュートンが、家庭にあったリンゴの実が地面に落ちるのを見て、万有引力の法則を発見したというあの逸話です。それは1665年(日本では寛文五年)のことでした。私も子供の頃にこれを知り、万有引力とリンゴの落下をストレートに結びつけて理解していました。しかしそれは大間違いだったことを後になって知りました。というより、万有引力についてあまりにも無知だったのです。勝手に理解したつもりになっていただけなのです。みなさんは大丈夫でしょうか。

何が間違っていたかというと、リンゴが地面に落ちるのは、地球に重力があって、リンゴが地球に引っ張られていると思っていたことです。実はニュートンよりずっと以前に、既に重力については知られていました。ですからニュートンは決して重力を発見したわけではないのです。これについても誤解されているかもしれませんね。ではニュートンはリンゴから何を発見したのでしょうか。それこそが「万有」引力の法則なのです。

そもそも万有引力というのは、重力と同じではありません。これは一方的な力ではなく、質量のある物体すべての間に作用するものでした。ここで大事なのは、なんと落ちるリンゴも地球を引っ張っているという視点が欠けていたことです。もちろんリンゴの質量が余りにも小さい(軽い)ので、まさかリンゴが地球を引っ張っているとは想像できませんよね。同じような逸話に、アルキメデスは風呂の中で浮力を発見したとか、ワットはポットの蒸気を見て蒸気機関を発明したとか、ガリレオはピサの斜塔から違う重さの球を落下させて、物体の落下する速度は同じであることを証明したという話などがあります。

実はニュートンのリンゴの話には続きがありました。ニュートンは決してリンゴだけを見ていたわけではなかったのです。ニュートンはリンゴの落下から発想を飛躍させて、では月と地球の関係はどうなのかを考えました。リンゴに対して働いている力は、月や惑星に対しても働いているのではないかと着想したのす。それを拡大すると、太陽と地球の間の関係にもなります。

リンゴが落ちるというのは卑近な例でした。それを広げて、リンゴは落ちるのに月は何故落ちないのかという問いができます。ニュートンの答えはというと、月もリンゴと同じように落ちているでした。これはリンゴと違って目には見えません。月は空にありますが、でも落ちているようには見えません。ただし月は楕円軌道を回っているので、地球に近づいたり遠ざかったりはしているようです。

そもそも物体はまっすぐに動きます(等速直線運動、慣性の法則)。ですから万有引力が存在しなければ、月はとっくに地球から遠ざかっているか反対にぶつかっているはずです。同様に地球はとっくの昔に太陽系から離脱しているはずです。そうならないのは、お互いが引き合っているからでした。でもリンゴのように落ちないで一定の距離を保っているのは何故なのでしょうか。それは地球が丸いから、そして月がその丸い地球を回っているからのようです。

というよりニュートンは、月も落ちていると考えました。月が地球からはみ出さないのは、常時地球に引っ張られて落ちているからだそうです。月は放物線を描きながら落ちているのに、地球が球体だから地球の周りを回っているように見えるというのです。リンゴについては簡単に納得できたのに、月になると頭がこんがらがってしまいそうですね。私も本当に理解できているわけではありません。そこが我々凡人と天才ニュートンの違いなのでしょう。

なお万有引力発見のきっかけになったリンゴの木は、「ニュートンのりんご」と呼ばれ、今でもその木の子孫が大事に保存されています。偉大な物理学者を偲ぶ記念樹となっているのです。しかもそのリンゴの苗木は、世界各地の科学に関係のある場所に贈られました。日本にも1964年(昭和39年)にイギリスから苗木を譲り受けています。ところがその苗木は、リンゴ特有の「高接病ウイルス」に感染していたのです。これは接ぎ木で伝染するウイルス病の一つでした。本来ならば輸入は禁止され焼却処分されますが、特別に小石川植物園で隔離栽培することになりました。

それからウイルス治療を施して親株を栽培し、新しく伸びた枝の先だけを他の台木に接ぎ木するという方法が試みられました。そして遂にウイルスに汚染していないリンゴの木を作ることに成功したのです。それは苗木が日本に贈られてから10年が経過した1981年(昭和56年)のことでした。その苗木が現在日本全国で育っているのです。

なお「ニュートンのリンゴ」は「ケントの花」と呼ばれる品種で、落果する性質が強い品種なのだそうです。もしこれが落果しにくい品種だったら、果たしてニュートンは万有引力を発見することができたでしょうか。