🗓 2024年07月13日
吉海 直人
みなさんは、毎年お中元を贈ったりいただいたりしていますか。夏がお中元で冬がお歳暮と使い分けられていることは存じですよね。では夏の「お中元」というのは、いったいどんな意味・慣例なのでしょうか。
「中元」を知るためには、まず「三元」を知る必要があります。あまり耳馴れない言葉かもしれませんが、「三元」は「上元・中元・下元」の三つからなっています。この中の「中元」が、お中元の語源です。もともと「三元」は中国の道教の行事に用いられた言葉で、「上元」は旧暦一月十五日(小正月)のこと、「中元」は七月十五日のこと、「下元」は十月十五日(収穫祭)のことを指しています。元来は自らの贖罪を懺悔する日でした。
この中で「中元」だけが、形と内容を変えて日本に定着しました。というのも、「中元」が仏教の「盂蘭盆」とが合体したことで、供物を親類や近所に配ったり、盆礼としてお寺に贈物をする風習が取り入れられたからです。ではいつごろから宗教色の消えたお中元が行われるようになったのでしょうか。はっきりしたことはわかりませんが、室町時代の公家の間で行われていたものが、江戸時代に庶民にまで広がっていったようです。また明治以降に百貨店が登場すると、売り上げの落ちる夏場に配達付きでお中元の商品が売り出されたことで、そこから日本の年中行事化されていったともいわれています。
その「お中元」と対になっているのが「お歳暮」です。ただしこちらは道教とは無縁のものです。要するにお中元とお歳暮は、もともとは対(セット)ではなかったのです。ただ時期的にいえば、お中元はお盆の前なので、感謝の気持ちと夏の健康を願う気持ちを相手に伝えるものになります。当然贈る時期は、七月十五日より前です。ただしもとは旧暦の行事だったものが、現在は新暦で行われているので、時期が一か月ほど前倒しになっています。ですから地域によっては、旧盆で八月十五日より前に贈っているところもあります。
それに対してお歳暮は年末ですから、今年の締めくくりとして一年の感謝の気持ちを相手に伝えるものです。ということで、遅くとも十二月二十五日前に贈ってください。何を贈るかということに決まりはありません。お中元は夏においしく味わえるものがよく、お歳暮では年末年始に家族で楽しめるものがベストだそうです。なお、お中元とお歳暮はセットではないといいました。ですから必ずしも二度贈る必要はありません。どちらか一つでもかまいません。
ただもし一度にするのでしたら、お中元よりお歳暮を贈る方がよさそうです。お中元を贈る基本は、お世話になった人への感謝の気持ちです。ですから受け取る(いただく)側は、中身に文句をいわず、贈ってくれた人の気持ちをありがたくいただきましょう。もっとも最近はせちがらくなっていて、暑中見舞いのはがきや年賀状などについても、虚礼廃止が叫ばれています。これは形だけの儀礼が蔓延したからなのでしょう。贈る側が虚礼と思うのだったら、それは廃されてもかまいません。
ただし虚礼か感謝かの線引きは、一律には決められません。感謝の気持ちを贈るのだったら、デパートの宣伝や相場はいくらなどといったことに惑わされず、できる範囲で贈ればいいのです。逆に賄賂もどきのお中元もあります。この場合、社会儀礼としての贈与と、職務に関係する贈り物とはどこで分けられるのでしょうか。これから取引でお世話になりたいとか、仕事上の優遇を求めるための高価なお中元は、贈賄に引っかからないともかぎりません。そういったものはうかうかと受け取らない方が身のためです。
会社と学校を同じように考えて、付け届けをする親もいます。長く大学に勤めていると、学生や父母から「単位下さい」とか「卒業させてください」といった不純な動機の贈り物も経験しました。そういった時は極力送り返すようにしています。中には賞味期限が短くて、送り返すことのできない生ものもありました。そんな時はやむをえず受け取って、贈られたものの値段を調べ、それと同等のものを送り返すようにしています。面倒ですがやむをえません。これは本来のお中元とは別のことですね。