🗓 2024年07月20日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

みなさんは「そばの日」がいつかご存じですか。最近は記念日ブームで、なんにでも記念日が設定されているようです。麺類にいろいろな記念日が制定されています。麺の日、うどんの日、カレーうどんの日、ラーメンの日、きしめんの日、チャンポン麺の日、パスタの日などがあります。最近は即席ラーメンの日まで制定されています。
 ただしそばについて、この日に始まったというような特別の日はなさそうです。そんなと時には日本語の特徴である語呂合わせ(言語遊戯)が効力を発揮します。無理やりそばを数字にあてはめるのです。
 「ば」はすぐに「八」に当てはめることができます。ただ「そ」の方は数字と直結しません。そこで「そ」と読める漢字を思い浮かべると、案外有名な「十河」があったことに気づきました。ということで「そばの日」は「十・八」になります。普通に考えれば10月8日で問題なく行けますよね。そこで東京都麺類生活衛生同業組合は、10月8日を「そばの日」として一般社団法人日本記念日協会に登録しています。ちょうど10月には新そばが出回りますので、この日は「新そばの日」でもありました。
 ところが別の「そばの日」も存在しています。たとえば一年のうちで蕎麦が一番消費されるのは大晦日(年越しそば)ですよね。これはそばが切れやすいことから、悪縁を切るというゲン担ぎに食されたことによります。本来ならば12月31日ですが、「おおみそか」ということで、12月30日を基本に据え、さらにその日一日だけではもったいないということで、毎月30日が「年越しそばの日」ならぬ「そばの日」に制定されてます。もっとも月末を重視して、毎月月末(晦日)を「そばの日」としているところもあるようです。これなら2月も含まれますね。
 それだけでは済みません。旧暦から新暦に切り替わった際、節分が大晦日から切り離されて2月3日になりました。でももともと大晦日ですから、この日にそばを食べる風習も「節分そば」として残っているところもあります。ですからこの日も「そばの日」の一部なのです。
 福井県では「十月八日」ではなく、毎月十八日を「そばの日」にしています。これは1999年に福井そばルネッサンス推進実行委員会が独自に設定したものです。こうなると、毎月18日と30日がともに「そばの日」になってしまいます。せっかくの記念日ですから、統一できないものでしょうか。
 これでおしまいかと思っていたら、「そばの日」は案外複雑だということがわかりました。というのも2月8日も「そばの日」に指定されていたからです。こちらは「二・八」ですから、いわゆる二八そばですね。この日を東京都麺類協同組合が「東京二八そばの日」にしていたのです。
 同じく2月ですが、2月11日は「出雲そばの日」として登録されています。これは松江藩主である松平直政が、信州松本藩から出雲の松江藩に移ることを言い渡された日とのことです。これによって信州のそばが出雲にもたらされたことを記念して制定されたというわけです。
 もう一つ、10月17日が「沖縄そばの日」に認定されています。もともと沖縄そばにはそば粉が含まれていません。そのため公正取引委員会から、そば粉を三割以上含んでいないものは「そば」と表示してはならないとのお達しがありました。「沖縄風中華麺」なら問題ないのですが、そこで「本場沖縄そば」とすることでようやく認証されました。それが1978年10月17日だったので、10月17日を「沖縄そばの日」にしたというわけです。
 「そばの日」は意外に複雑ですね。もっともそばは栄養価が高いので、何度でも食べてください。