🗓 2026年01月31日
吉海直人
「山椒」はミカン科サンショウ属の植物です。名前の由来は山に自生していること、そして「椒」は芳しいとか辛いという意味です。山に自生する香り高い実が成るということで「山椒」と名付けられました。「サンショウ」は「サンショ」ともいいます。また別称として「はじかみ」「木の芽」とも呼ばれています。なお「はじかみ」は香辛料の総称なので、「山椒」以外に「生姜」のことも指します。
特徴としては、ミカン科ということでトゲがついています。またアゲハ蝶がよく卵を産み付ける木としても知られています。花は五月ころに黄色い花を開花させます。雄株と雌株に別れていて、雌株には実がなるので雌雄の見分け方は簡単です。ところで「山椒」の諺としてもっとも有名なのは「山椒は小粒でひりりと辛い」ですね。山椒の実は小さいがとても辛いところから、たとえ体が小さくても才能があって力を発揮する人がいることのたとえになっています。意味についてはそれでまったく問題ありません。私が気にしているのは微妙に言い方が違っていることです。
私は小さいころにテレビで古典落語を聞いていた際、落語家が「ひりりと辛い」と言っていたので、ああ清音なんだと思って記憶しました。ところがいつも参照している『日本国語大辞典』には、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」とあったので驚いてしまいました。一体どちらが本当なのでしょうか、どちらが古い言い方なのでしょうか。
そこで調べてみたところ、江戸時代には、
さんせうは小粒なれどもからし(俳諧『毛吹草二』1638年)
さんせうはこつぶでもからい(咄本『鹿野武左衛門口伝はなし下三』1683年)
山椒は小粒ても辛ひ(『諺苑』1797年)
などとあって、肝心の「ひりりと」が使われていないことがわかりました。では「ひりり」と「ぴりり」はどうかというと、「ひりり」は江戸時代の用例がありましたが、「ぴりり」は明治以降しか見当たりませんでした。もっとも江戸時代までは清濁をきちんと表記しないので、たとえ「ひりり」とあっても清音なのか半濁音なのかはわかりません。もっといえば、「ひりり」や「ぴりり」よりも「びりり」の方が古くから使われていたことがわかりました。
それは江戸時代前期にオランダ人が伝えた苦味の強い薬剤のことを「ビリリ」と称していたからです。もっともこれはオノマトペではなく、ラテン語で胆汁のことを bilisと称したことからそう命名されたもののようです。要するに「ひりり」でも「ぴりり」でも「びりり」でも苦いイメージは伝わります。ただ「ピリピリする」「ビリビリする」「ヒリヒリする」では微妙にニュアンスが異なるのではないでしょうか。痺れるような辛さなのか、それとも焼けるような辛さなのか、それとも電気ショックのような刺激なのでしょうか。
その山椒はもちろん薬用としても使われていますが、日常では香辛料として活用されています。特にウナギのかば焼きには付きものですね。もう一つ欠かせないのは麻婆豆腐でしょうか。これには興味深い話がありました。そもそも麻婆豆腐は、それほど古くからある料理ではありません。みなさんは「麻婆」に「婆」という漢字があること、気になりませんか。これは清の時代に四川省成都市の陳劉という未亡人が、労働者向けに作った豆腐料理だったからです。その劉さんの顔には麻点(あばた)があったことから、「陳麻婆」と呼ばれていたそうです。その彼女が作った豆腐料理なので、「麻婆豆腐」と呼ばれたということです。
その「麻婆豆腐」は、口から火を吹きそうなほど辛いのが特徴でした。花椒(ホアジャオ)という香辛料をたっぷりと効かせていたからです。それが陳建民さんによって日本に紹介されました。ただし当初は中国の花椒も手に入らなかったので、日本にある山椒で代用したところ、激辛ではなく食べやすい和風の「麻婆豆腐」になったそうです。これがむしろ日本人に好まれ、現在のような人気中華料理になったのです。
