🗓 2023年10月28日
吉海 直人
11月3日は文化の日ですよね。ではその由来は知っていますか。もともとこの日は明治天皇の御誕生日(明治節)でした。それが第二次世界大戦に敗れたことで、GHQから廃止の打診がありました。何とかこの日を残したい日本政府は、日本国憲法の交付に合わせて、この日を文化の日として祝日に制定しました。肝心の憲法記念日は、半年後にスライドして5月3日(施行日)になっています。
ただ11月3日は、それ以外にもいろんな記念日が重なっています。さてここで質問です。みなさんは次の言葉から何を思い浮かべますか。
はい、これはミカン、いわゆる柑橘類の名前です。これも語呂合わせなのですが、11月は1が続くので「いい(良い)」になります(だから記念日が多いのです)。「三日」はちょっと苦しいかもしれませんが、昔は「みっかん」と称されていました。ミカンを漢字で書くと「蜜柑」ですよね。室町時代はこれを「みつかん」と読んでいました。『日葡辞書』にも「Miccan(ミッカン)」と表記されています。それが後世に「つ」が取れて「ミカン」となったのです。ですから「三日(みっか)」と「みっかん」はすんなり語呂合わせになるのです。
ではもう一つ質問です。みなさんは柑橘類の名前をどれくらいあげられますか。ミカンに続くのは、オレンジ(ネーブル)・夏ミカン・八朔・ポンカン・文旦・晩白柚・グレープフルーツなどでしょうか。最近はキンカンもおいしくなりましたね(「タマタマ」もあります)。別に料理に添えるものとして、香酸柑橘系の柚子・橙・レモン・スダチ・カボス・ライム・シークワサーなど、多くの柑橘類がスーパーに並んでいます。
どれも昔に比べるとかなり甘くなったので、それぞれの違いがわかららなくなってきました。かつては日本産のミカン(温州みかん)と外国産のオレンジ・グレープフルーツくらいは区別できました。そのミカンとオレンジを交配したタンゴールの品種としてイヨカン・清美・はるみ・せとか・デコポンなどが流通しています。またミカンとグレープフルーツを交配したセミノールやスイートスプリングもあります。文旦の仲間は大きくて皮が厚いのが特徴です。私は長崎の出身ですから、文旦ではなくザボンという名称の方が馴染みがあります。
こういった人工的な交配種以外に、いわゆる自然交配種として甘夏・八朔・日向夏・サンポウカンがあり、それ以外にキンカンとカラタチがあげられます。カラタチは、もとは唐橘だったものが詰まって「カラタチ」になったとされています。「唐」とあるように中国から渡来したもので、古く『万葉集』にも、
と詠まれています。
ところで柑橘類というと、漢字は「柑」と「橘」ですよね。「柑」は「柑子」のことで、『徒然草』十一段「神無月のころ」や、『宇治拾遺物語』所収の「わらしべ長者」にも出ています。一方の「橘」は『古事記』『日本書紀』に、田道間守が常世の国から「時じくの香の木の実」を持ち帰ったことが記されています。『万葉集』にも、
と歌われています。『古今集』以降の勅撰集にも多く詠まれており、それもあって御所の紫宸殿に、左近の桜・右近の橘として植えられている由緒正しいものです。また『源氏物語』にも花散里周辺に橘が効果的に使われています。その場合は花橘、つまり橘の白い花と甘い香りが詠まれています。
食用としては「柑子」の方がおいしくて、「橘」は酸味が強くて向かないようにも思えますが、『続日本紀』天平8年(736年)11月11日条には、「橘は菓子の長上にして人の好むところなり」と記されています。平安時代には「柑子・橘」と並記され、酒の肴として供用されていたようです。『伊勢物語』60段には「さかななりける橘」とあります。あるいは「橘」にも食用に適した別の種類があったのでしょうか。