🗓 2025年07月12日

吉海 直人

私が同志社女子大学のホームページにコラムを発表して以来、広報課にマスコミからの問い合わせが増えました。何しろ掲示しているコラムの内容が雑多なだけに、問い合わせも雑多なもので、ほとんどは私の専門外ばかりでした。そのために安易な問い合わせについては、ほとんど取材をお断りしてもらっています。中には真面目な質問、あるいは私が興味をひくような内容もあり、テレビに顔を出すことも少なくありませんでした。ただし私が専門に研究している『源氏物語』や『百人一首』に関する問い合わせは、皆無に近かったのが残念でなりません。
 そんな中で、一番重複して問い合わせがあったのは、なんと「大判焼き」関係でした。これは地域ごとに名称が大きく異なっているので、特に地方のテレビ局からの取材・問い合わせが多かったようです。これまでに静岡放送・長野放送・北海道文化放送などの取材を受け、解説をさせてもらいました。地方のテレビ局ですから、関西に住んでいる私は、実際にテレビを見ることはできません。ただ最近は見逃し配信が一般化してきたことで、少々遅れてなら見られるようになってきました。静岡は「黄金まんじゅう」という特殊な名称です。長野はさらに細分化されており、上田市は「じまんやき」、善光寺付近は「とりこの焼き」と別れています。みなさんこの名前でピンときますか。
 その中に「おやき」もあります。これは長野の特産として有名ですよね。ところがなんと青森や北海道・岩手の一部では、それが「大判焼き」のこととして、ちゃんと一般に流通しているのです。青森と北海道では、どうも青森の方がやや早く売り出されたようです。そのあたり、きちんとルーツを調べてみてはいかがでしょうか。その上で、長野県民と北海道民との「おやき」対決はいかがでしょうか。歴史的には長野の方が間違いなく古いのですが、では何故北海道は「大判焼き」を「おやき」という名称で売り広めたのでしょうか。長野の「おやき」を承知の上での命名なのでしょうか。合わせてそれに対して長野県民がどう思っているのかも聞いてみたいものです。ひょっとすると、そのうちあんこの入った「おやき」が長野でも販売されるかもしれませんね。
 問題はそれだけではありません。青森といっても、弘前には「黄金焼き」と称する店があって、そこだけは「こがね焼き」と称しています。最近もう一つの話題が浮上してきました。というのも北海道大学の生協では、学生委員企画で開催された「物体Ⅹ」がSNSで話題になったからです。これは商品名を仮に「物体Ⅹ」として、学生にこれを何と呼んでいますかというアンケートを行っているのです。令和7年のアンケートには千人以上の回答があったそうですが、その中で第一位になったのは「今川焼き」だったとのことです。
 おそらく地元の人に同じようにアンケートしたら、トップは「おやき」だったはずですが、何しろ方言のるつぼといわれる大学ですから、地元とのずれがあってもおかしくはありません。結局出身地を調べたら、関東圏から北大に入学した学生が一番多かったとのことです。だから「今川焼き」がトップだったのです。
 そのアンケートに名前があがっている「蜂楽饅頭」というのは熊本県水俣市発祥ですが、福岡県・鹿児島県・宮崎県にも支店があるので、次第に名前が広がっています。残念ながら今回の回答に「きんつば」はあがっていませんでしたが、福島県一帯では「きんつば」という名称の「大判焼き」が出回っています。さらにその「きんつば」を「太郎焼き」と称しているのが、太郎焼本舗(会津若松市)でした。京都の「きんつば」(和菓子)の方がよく知られているのに、なぜ会津では「大判焼き」を「きんつば」と称しているのか不思議でなりません。
 それにしても「物体Ⅹ」という名称には強いインパクトがあります。どうせなら北海道大学生協だけ、「おやき」を「物体Ⅹ」という名で販売したらどうでしょうか。その方が話題性があると思います。補足ですが、ネット販売におもしろTシャツというのがあって、「大判焼き」の絵の横に「おれの名をいってみろ!」と書かれています。これは「北斗の拳」が出典のようですが、「大判焼き」でも十分通用しますね。