🗓 2021年07月17日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

関東と関西の違いといったら、みなさんは何をあげますか。九州生まれの私は、どちらかといえば関西文化圏に含まれます。それでも長い関東での暮らしを経て関西に赴任した時には、文化の違いに驚きの連続でした(テレビのコマーシャルまで違っていました)。会津若松はどうなのでしょうか。私の感覚では関西文化も入り込んでいるように思えます。
 それはさておき、よく例にあげられるのは餅の形ですね。関東では四角(切り餅)なのに関西は丸です(九州も丸餅)。小さいころテレビマンガで、四角い餅を焼いているのを見て驚いた記憶があります。食べ方にしても、関東では海苔を巻く磯辺焼きが主流ですが、関西では醤油に砂糖を入れて食べるのが主流です(私はきなこでした)。その餅を入れる雑煮にしても、関東は餅を焼いて入れるのに対して、関西は焼かないで入れて煮ます。また味付けは、関東は醤油ベースのおすまし仕立てなのに、関西は味噌仕立てが一般的です(京都は白味噌)。ただしバリエーションも豊富なので、関西は味噌と決め付けることはできません。
 また関東は蕎麦で関西はうどんともいわれています。そばつゆにしても、江戸前は濃いことで有名です。うどんの汁の違いもあげられます。関東はかつお節だしで、関西は昆布だしです。それは関東の水が硬水で関西が軟水だからなのかもしれません。さらに関東は濃口醤油であるのに対して、関西は薄口醤油が使われています。それがなんとカップ麺のどん兵衛にも影響を与えており、関東と関西でだしの濃さを変えて販売しています。フタにEとあったら関東用、Wとあったら関西用です。なかなか芸が細かいですね。是非食べ較べてみてください。
 醤油だけではありません。ソースにしても関東はブルドッグソースで、関西はイカリソースが主流です。カップ焼きそばなど、関東はぺヤング(まるか食品)派が多いのに対して、関西はUFO(日清食品)派が多いといわれています。夏に食べるところてんにしても、関東では酢醤油が一般的ですが、関西では黒蜜が多いようです。すき焼きの作り方も違っていて、関東では割り下を使いますが、関西では使いません。もともと鋤で焼いたのが牛すきだったので、その名残なのでしょう。それに対して関東は牛鍋ということになります。お好み焼きにも違いあります。関東ではみんなでシェアして食べるので、ピザのように切り分けますが、関西では一人一枚なので格子切りにするというのです。心当たりはありませんか。
 お雛様の飾り方はどうでしょうか。関西は男雛が左(向かって右)であるのに対して、関東では右(向かって左)になっています。関西は御所雛がルーツなのに対して、関東は西洋流の男女の並びを導入しているからです。引っ越しをしてわかるのは電気の周波数で、関東が50ヘルツなのに対して、関西は60ヘルツになっています。畳のサイズにしても、江戸間(小さい)と京間(大きい)で異なっています。大学生の呼び方など、関東では何年生と呼ぶのに対して、関西では何回生というのが一般的ですよね。ただし九州では何回生とはいいませんでした。最近よく話題になるのは、エスカレーターのどちらに乗るかです。関東は左(右を空ける)で関西は右(左を空ける)に分かれています。ただし京都はばらばらです。バス停にしても、関東はきちんと並ぶのに、関西は並ばないともいわれています。狭い日本で何故こんなに違うのでしょうか。これは単なる地域性だけでなく、武士と商人といった身分・職業の違いも考えられます。
 名称の違いというのも結構あります。たとえば関東では「肉まん」と呼ばれるものが関西では「豚まん」ですね。これは「肉」といったら関東が「牛肉」で関西が「豚肉」をさすこととも無縁ではありません。関東で「がんもどき」といわれているものが、関西では「ひろうず」と呼ばれています。関東で「ドラヤキ」とされているものは、関西では「みかさ」あるいは「みかさ山」です。また関東でガビョウ(画鋲)と称されているものが、関西では「押しピン」で通っています。関東の人は「さぶいぼ」という語を耳にしてもなんのことかわかりません。これはいわゆる「鳥肌」をいう関西弁です。もう1つ、関東の人は「メバチコ」はわかりますか。これは「ものもらい」(はやり目)のことをいう関西の言葉です。
 言葉の省略の仕方にも違いがあって、その典型がマクドナルドでしょう。関東では「マック」が一般的ですが、関西では「マクド」が普通です。ユニバーサルスタジオジャパンの略称にしても、関東では「ユーエスジェイ」と呼ぶのに対して、関西は「ユニバ」です。ただしミスタードーナッツは何故か「ミスド」で共通しているようです。
 表現の違いもあります。有名なのは関東では「バカ」を多用しますが、関西では「アホ」が多用されています。関東では蚊に刺されたといいますが、関西では蚊にかまれたといいます。居酒屋で最初に出てくるものを、関東では「お通し」と呼ぶのに対して、関西では「つきだし」と称しています。見た目はわかりませんが、関東では切腹を嫌ってうなぎを背開きにするのに対して、関西では腹開きが普通です。また関東は一度蒸しています。なお関西で「まむし」と称されるのは、決して蛇のかば焼きではありません。うなぎをご飯にまぶして食べるからです。
 その他、同じ言葉でも形が異なっているケースもあります。食材のネギなど、関東では白くて大きな「根深ネギ」ですが、関西では細い「青ネギ(九条ネギ)」になります。関東ではおにぎりを三角形に握りますが、関西では俵型が多いようです。ただしいなりずしは反対で、関東では俵型が普通ですが、関西では三角形が一般的です。なお関西ではこれをお稲荷さんと称しています。
 葛餅にしても関東は小麦粉と黒蜜主流ですが、関西はくず粉ときな粉主流です。また関西のわらび餅を関東では葛餅と称しているともいわれています。というより関東ではわらび餅があまり知られていないのに対して、関西では夏になるとわらび餅販売の軽トラックが徘徊します(冬は焼き芋屋になります)。
 たまごサンドについては、関東ではゆで卵をつぶしてマヨネーズをかけてはさみますが、関西では厚焼きにした卵焼きをはさみます。食パンの厚さにも違いがあって、関東では6枚切り8枚切りが主流ですが、関西では4枚切り5枚切りが主流になっています。関西の方が食パンは厚切りなのです。
 名字の読みに関しても、関西は「藤原」など「ふじ」と読むのに対して、関東は「加藤・佐藤・斎藤」など「とう」と読むとか、関西で「谷」を「たに」と読むのに対して、関東では「や」と読むといわれています。連濁にしても、関西は「山崎」を「やまさき」と読むのに、関東では「やまざき」と濁って読むとされています。これ以外にも、まだまだいろいろな違いがあるはずです。是非家族や友人と話し合ってみてください。