🗓 2021年07月24日
吉海 直人
みなさんは世界三大穀物をご存じですか。「小麦」「トウモロコシ」と「米」の三つです。その主要生産地はアジア圏であり、中国・インド・インドネシアの生産量がかなり多いとのことです。「米」の国だった日本ではこのところ生産量が減少しており、現在は生産国のベストテンにも入らなくなっています(ブラジルやアメリカよりも少ないのです)。これはパン食が増えたせいでしょうか、それともおいしい「米」作りにシフトしたためでしょうか。せっかくですから、ここで「米」について勉強しておきましょう。
英語で「米」のことを「ライス」といいますね。ただ日本人は「R」と「L」の使い分け(発音)が苦手なようで、「米(rice)」といったつもりが「しらみ(lice)」と受け取られかねないということです。もう1つ、日本語では植物としての「稲」と、収穫される実としての「米」、そして炊飯された「飯」を区別していますが、英語ではすべて「ライス」だそうです。それはやはり日本が稲作文化だったからでしょう。では「ライス」と「ご飯」の違いはわかりますか。どうも平皿に盛られたものは「ライス」(洋食)で、茶碗に盛られたものは「ご飯」(和食)と使い分けているようです。だからカレーの時は「ライス」なのです。
ところで「稲」というのは、ほとんど無駄が出ない有益な植物です。稲穂を外した藁は、屋根葺用・畳用・草鞋用・綱用など生活の中で用いられるし、家畜の飼料としても使われています。また実としての「米」は、大きく2つに分けられます。収穫(脱穀)したばかりの「米」は、籾で覆われています。それを籾すりしたものが「玄米」です。それをさらに精米したものを「白米」と呼んでいます。「玄」は「白」に対する「黒」ですが、決して黒くはありません。例えば「黒木」が外皮のままであるのに対して、「白木」が皮を剥いだものを指すのと同じです。籾すりで分離させた籾も無駄にせず、畑の肥料などに用いています。また精米の際に出る糠は、漬物などに使っていますよね。
ご承知のように日本人は、長い間米を主食としてきました。そのため古くは納税も米で行われていました。江戸時代の大名の価値は石高(一石は十斗)で表わされていたし、仕えている武士の俸給(扶持)も米で支払われていました。第二次世界大戦中、米は配給になっており、そのための各家庭には米穀通帳が配布されていました。戦後に有名無実になりましたが、それでも昭和56年に廃止されるまで続いていました。私にも通帳の記憶があります。
昔は白い米を食べるのは贅沢だったので、軍隊や相撲部屋では白い米が腹一杯食べられるといって勧誘していました。ところが白米にすると、米糠に豊富に含まれているビタミンB1などの栄養分が損なわれます。そのため脚気にかかる人が多かったそうです。玄米あるいは麦飯を食べていれば脚気にかからないのですから、なんとも皮肉なことですね。
精米した「米」を粉にしたのが「米粉」です。これにはウルチ米で作られたものと、もち米で作られたものがあります。うるち米から作られるのが上新粉やかるかん粉で、これを麺にしたのがビーフンです。この名は「米粉(べいふん)」の訛ったものともいわれています。他に煎餅にも加工されます。最近はアレルギーのある小麦粉に代わって、パン粉の代用としても使われるなど、格段に用途が広がっています。一方、もち米から作られるのが餅粉・白玉粉・道明寺粉・求肥粉などで、主に和菓子に用いられています。
なお「米」の読みを調べてみると、音読みでは「べい」「まい」「め」があり、訓読みでは「こめ」「よね」があります。「め」は「久留米」「久米」などと使われています。もう一つ面白いのは、「メートル」を「米」と表記していることです。またアメリカのことを「米国」と表記していますが、これは音を借りているだけで(中国語)、アメリカと「米」に関りはありません。それは「亜米利加」という表記も同様です。
この「米」が名字として使われると、「米田」「米村」「米津」「米塚」「米沢」「米倉」「米山」など「よね」と読まれることが多いようです。まれに「米子」(まいこ)・「米原」(まいばら)とも読みますが、圧倒的に「よね」の方が優勢です。ついでながら「米」を分解すると「八十八」になるので、言葉遊びから「米寿」という言い方もあります。