🗓 2022年02月19日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

日本には外国の地名が冠されたものがたくさんあります。しかしその多くは地名とは無関係であり、その国の人に聞いてもわからないことが多いようです。たとえば「米国」といっても、アメリカ人はまさか自国のことだとはわかりませんよね。コーヒーにしても浅く焙煎した「アメリカン」がありますが、もちろんアメリカでは通用しません(和製英語)。日本人の大半はそれを薄めのコーヒーだと思っていますが、何倍でもおかわりして飲めるというのが正しい意味のようです。
 「ウインナーコーヒー」に至っては、ウイーン風とありながら、現地(オーストリア)では絶対に飲まれていません。これも和製英語でした。もちろんウインナーソセージは入っていません。「ロシアンティー」にしても、ロシアでは通じません。ましてロシアでは、ジャムを舐めながら紅茶を飲むのが普通で、紅茶の中にジャムを入れて飲むことはないとのことです。
 スパゲティの「ナポリタン」にしても、ナポリ風といいながら、実際のナポリでは食べられていません。これは横浜のホテルが創作して、それらしく命名したものだからです。そういった日本でしか通用しない外国の地名、他にもたくさんありますね。たとえば「フランス人形」はどうでしょうか。いわゆるビスク・ドールのことを、フランスではフランス人形とはいいません。どうも日本のフランス人形は、西洋風人形の総称のようなものですから、フランスで通用するとは思えません。
 通用しない最たるものの一つが、「インドカレー」でしょうか。日本人はインドがカレーの本場だと信じていますが、それは日本的なカレーはないし、ましてカレーという名の料理も存在しません。もともと汁物という意味の「カリ」をイギリス人が「カリー」と称し、そのイギリスからもたらされた「カリー」を日本人は「カレー」と称しました。ですから日本を訪れたインドの人がカレーを食べて、これなんという料理ですかと尋ねたという笑い話まであるのです。
 「アメリカンドッグ」にしても、アメリカではコーン・ドッグと呼ばれていますから、アメリカ人には通用しません(和製英語)。北海道ではこれを独自に「フレンチドッグ」と称しているようですが、そうなると日本人同士でも通用しないかもしれません。またお隣の韓国では、これをホットドッグとも称しているようです。そうなると「ホットドッグ」と「アメリカンドッグ」との違いも話題になりそうですね。
 また「トルコライス」というのは、一皿にピラフとナポリタンとトンカツが盛られている料理です。これは長崎で広まったもののようですが、もちろんそんな料理は本場トルコにはありません。ただしピラフに近いものがトルコ料理にあるので、まったく無関係というわけではなさそうですが、それでもトルコでは通用しません。かつて日本には「トルコ風呂」という性風俗用語がありました。しかしトルコにはハンマームという大衆浴場はありますが、それは性風俗とは無関係でした。そのためトルコの留学生からの抗議を受け、「ソープランド」に名称変更したといういきさつがあります。
 関西には「ニューヨーク・ニューヨーク」という美容院のチェーン店がありますが、アメリカの人にはヘアーサロンであることは伝わりそうもありません。では「イタ飯」はどうでしょうか。イタリア料理なら問題ありませんが、イタ飯となるとイタリアの人には通じそうもありませんね。「ブルーハワイ」にしても、ハワイではラム酒入りのカクテルの名称ですが、日本ではかき氷の名前(シロップ名)になっており、誤解を招きかねません。
 中国の地名が付いたものもたくさんあります。一番は「中華そば」でしょうか。これは「志那そば」とも称しています。もちろん中国に麺はありますが、それを「そば」とは称していません。冬によく食べる「中華まん」も同様です。中国ではパオズと呼ばれる饅頭の一種でした。それを日本で「中華まん」として売り出したのです。でも中国の人は「中華まん」といっても何のことだかわかりません。
 「天津甘栗」にしても、天津では通用しません。むしろ北京でよく食べられているとのことです。「天津飯」にしても、本場の天津では通じません。もともと天津のワタリガニで蟹玉丼を作っていたのですが、それがいつしか天津飯として定着したというわけです。なお関東と関西では呼び方が違っていて、関西では天津飯なのに関東では天津丼と呼ばれています。
 安易に外国の地名を使うのは、相手の国に失礼になることがあるのでご注意ください。