🗓 2022年12月10日
吉海 直人
子・丑・寅と干支が順番に進んできました。さすがに四番目の「卯」(癸卯)になると、特にみなさんに申し上げることは見当たりません。ウサギが何故干支の四番なのか、それにまつわる逸話など伝わっていないからです。単にトラに追い抜かれて四番になったというだけなのです。
では卯年にはどんな特徴があるのでしょうか。一般にウサギは温厚な動物だとされており、そこから家内安全と結びつけられています。また「ウサギ」はピョンピョン跳ねることから、飛躍・向上の象徴にもなっています。特に株式相場が跳ね上がることが期待されているようです。ただ前回(2011年)の卯年は、ご承知のように東北大震災と原発事故が発生した大変な年でした。来年はそんなことが起こらないことを祈るばかりです。コロナも終息すればいいですね。
「ウサギ」について特筆したいのは、数え方(数詞)についてです。「ウサギ」は四つ足の動物ですから、普通だったら1匹2匹と数えるはずなのに、何故か1羽2羽と数えています。これについてある説では、昔は四つ足動物の肉は食べてはいけなかったのですが、二本足の鳥の肉なら食べてもよかったので、「ウサギ」を鳥に擬して二本足と称して食べていたといわれています。徳川家でも毎年正月にはうさぎ汁を食べていたそうです。
そういえば童謡「ふるさと」に「うさぎ追いしかの山」とありますね。これも「ウサギ」狩りのこととされています。そこから「うさぎおいしい」という勘違いも生じたのでしょう。それとは別に、「ウサギ」という名前の語源として「兎鷺」と表記されたことで、サギの一種だと信じられたという説もあります。いずれにしても昔は貴重な食料だったことがわかります。
食用だけではありません。日本の「ウサギ」は野ウサギと穴ウサギの二つに分けられています。そのうちの穴ウサギが飼育用に改良され、室町時代後期にオランダからもたらされました。江戸時代の絵画に描かれている「ウサギ」の正体は、どうやらこれだったようです。明治時代には、ニュージーランドから輸入された白ウサギの飼育が大々的に行われています。それは必ずしも愛玩用ではなく、その毛皮からコートや帽子を製造するためでした。
そうそう、月の「ウサギ」も有名ですね。満月の表面を見て、「ウサギ」が餅をついているように見えますか。月に「ウサギ」が住んでいるという話は、古くインドや中国にありました。それが日本に伝来したのでしょう。インドのジャータカには、次のような話があります。
昔、ウサギとキツネとサルがいました。ある日、食べ物を乞う老人に出会った3匹は老人のために食べ物を持ち寄りました。サルは木の実を、キツネは魚を取ってきました。ウサギは何も取れなかったので、「私を食べてください」といって、自ら火の中に飛び込みました。実はその老人は、3匹の行いを試そうとした帝釈天でした。帝釈天はウサギを憐れみ、月の中に甦らせました。
ついでに「波ウサギ」のこともあげておきましょう。謡曲「竹生島」の中に「月海上に浮かんでは兎も波を奔るか」とあって。そこから波の上を走るウサギが図案化され、縁起物の波兎文様として大流行しました。それが意匠として至る所に使われています。みなさんの身近にもあるはずですよ。
もう一つ忘れてならないのは、『古事記』神話にある「因幡の白兎」です。あるところに八十神という神様の兄弟がいました。因幡の国にいる八上姫に求婚するために行く道中で、ワニザメを騙そうとしたために毛をむしられて丸裸で泣いている兎を見つけます。神様たちは面白がって、「海水を浴びて山の頂上で風と日光を浴びれば治る」と言いました。その通りにした兎は、痛みがますますひどくなりました。
そこへ兄の神様たちの荷物を持たされていた大国主がやってきました。泣いている兎を見て理由を聞くと、八十神たちの言うとおりにしたところ、余計に体が傷ついてしまったのです。と答えました。すると大国主は、兎をかわいそうに思い、真水で体を洗い、蒲の穂をつけなさいと教えました。兎が言うとおりにすると、体の傷はたちまち癒え、毛も元通りに生えました。感激した兎は、あなたこそ八上姫の婿になるお方ですと告げます。果たして八上姫のもとに八十神たちが着き、求婚しますが相手にされません。そこへ大国主が遅れてやってくると、あなたの妻にしてくださいと言って、二人は結ばれました。
もちろんウサギは昔話にもしばしば登場しています。「うさぎとかめ」・「カチカチ山」などは有名ですね。外国物では『不思議の国のアリス』・『ピーターラビット』・「バックスバーニー」・「ミッフィー」などがあげられます。そういえばピーターラビットのお父さんは、マクレガーさんの奥さんに肉のパイにされたとありました。ちょっと怖い話ですね。
なお記念日の中に「ウサギの日」も制定されています。これは「ウサギ」の特徴である長い耳を「ミミ」と読んだことから、語呂合わせで3月3日にしたものです。当然「耳の日」と重なっています。というか、「うさぎの日」に何かすることがあるかというと、何もないようです。むしろ何もしないで休む日なのでしょう。