🗓 2025年11月15日
吉海 直人
日本で販売されている薬の名前に興味を抱きました。もともと薬は西洋で作られたものが多いので、横文字というかカタカナが多いのも頷けます。ところが時々これは日本語ではないのかと思うようなネーミングも少なくありません。必ずしも外国語ではなく、いかにも外国語風の表記でありながら、実は日本語がもとになっているというか、ダジャレになっているケースがたくさんありそうです。
これは日本人のユーモアなのかもしれません。例えば大正14年に発売された「ケロリン」という富山めぐみ製薬の鎮痛薬はどうでしょうか。これはすぐに効いて痛みがケロッとなくなるという意味が込められているようです。またケロヨンというカエルのキャラターも重なっており、薬局の前にカエルの置き物が展示してありましたね。「頭痛にノーシン」というCMでおなじみのアラクスの「ノーシン」にしても、脳の痛みが消えて脳が新しくなるといった意味のようです。全薬工業の「ジキニン」は成分にジ・キニーネ炭酸エステルを含むことからのネーミングのようですが、岡江久美子さんCMで「ジキニンでじきに治って」と宣伝していたので、むしろこちらのダジャレの方が定着したようです。
同じく第一三共ヘルスケアの鎮痛剤「カロナール」にしても、痛みが軽くなるという日本語を横文字風に表記したものですよね。田辺三菱製薬の「グッドミン」は「グッド」と「睡眠」を結合したもので、良い睡眠がとれるという意味です。アステラス製薬の「マイスリー」など、「マイスリープ」から「プ」を除いたもので、自分の睡眠のための睡眠剤ということのようです。武田薬品工業の「ロゼレム」(睡眠導入剤)も「ローズ」と「レム」を組み合わせたもので、バラ色の夢を見る意味でしょう。エーザイの「ルネスタ」(不眠症治療薬)にしても「ルナ(月)と「スター(星)」を組み合わせたもので、湧永製薬の「カユドメリン」はかゆみを止める薬です。
カイゲンファーマの「ラクトール」は、便秘薬で楽に便が通る(お通じがある)ということです。同じく藤本製薬の「ヨーデルS糖衣錠」はどうでしょうか。これはスイスのヨーデルを想起させますが、なにしろ便秘薬ですからやはりダジャレで便がよく出ると解釈してしまいますよね。ズバリそのものというのが高砂製薬の「ハイベン」(排便)でしょうか。
もう一つ印象に残っているのは、小林製薬の「ナイシトール」です。いかにも外国語風ですが、内脂肪を取る(分解する)という日本語そのままの命名でした。こういった名称は日本人にはわかりやすいかもしれませんが、外国人には何のことかさっぱりわからないのではないでしょうか。どうやら小林製薬はダジャレが好きな人がいるらしく、随分多くの薬が日本語をモチーフにしていることがわかりました。
いくつかをあげると、「コムレケア」はこむら返り、「サカムケア」は逆剥け、「ガスピタン」はお腹のガスをピタッと止める、「ケシミン」はしみを消す、「ツージーQ」はお通じをよくする、「ヒガサンヌ」はフランス語のような響きですが、実は日傘なので日焼け止め(UVカット)、「チクナイン」は蓄膿症、「ボーコレン」は膀胱炎の薬、「シビラック」は痺れがとれて楽になるとなります。ここまでくると悪乗りというかやりすぎの感もありますね。東和薬品の「ガスサール」にしても「ガスピタン」同様、腸内のガスを除去するという意味のようです。
こういった外国語モドキのダジャレを含む言語遊戯ですが、方向性としては薬の効用をなんとか名前に表出したいという思いからの命名なのでしょう。ただしうまくいったものもあれば、うまくいっていないものもあるというのが現実です。購買者のわかりやすさを目指すというのなら、それもありかと思います。なおこういったダジャレ気味の表現、どうも関西弁に近いような気がしますが、いかがでしょうか。
