🗓 2022年02月15日

前稿で中井けやき先生の「明治の兄弟」を買うつもりがネット通販へのオーダーミスで菊池寛の「明治の兄弟」を買ってしまいがっかりした話をした。買った書店に買い戻ししてもらえないかと直談判してみたが断られた話も書いた。

しかたがないので「明治の兄弟」を読んだのだが、短編小説が9つ載っていて一番初めの短編名が「明治の兄弟」であった。2・3編読んだら飽きてしまい机のうえに載せたままほったらかしにしておいた。ある晩スキージャンプの団体戦でメダルを逃したのが残念でなかなか寝られなかった。

それで、タバコをふかしているとテーブルの上にあった菊地寛著の「明治の兄弟」が目に入った。また羊の数を数える効果を期待して、本を読んで寝ようということにした。そしたら、その短編は相当な優れものであることに気づいた。一挙に最後まで読み進んだ。5番目の短編は「壮絶鶴ヶ城」である。中野竹子も新島八重も出てくる。家老西郷頼母一家21人の自刃も出ていた。死にきれずいた女子を味方と偽ってとどめを刺してあげたと土佐の中島信行初代衆院議長のことも書いてある。中島信行は戊辰戦争時会津に従軍した記録がないので別人であると今では通説になっているが、当時は中島信行説が主流だったのだろう。

その中に菊地寛の出身地高松藩のことを書いたのがあった。高松藩の本家は黄門さまの水戸徳川家である。江戸幕府は四国の抑えとして御三家の分家を高松に置いた。主人公は高松藩の将来を考えその時藩の主流派である親幕府側の人物を仲間と語らい暗殺した。攻めてくる尊王攘夷派の土佐藩と高松藩が戦火を交えないようにするため、窮余の策である。その親幕府の重鎮は遠縁にあたり、その娘と許嫁となっており、息子とは兄弟同様に育った。主人公は出世して明治政府の中枢に勤め立身出世を遂げた。その兄弟同様に育った萬之助が父親の敵を討つために東京に出てきて主人公の世話になる。父親の敵である主人公は仇討の張本人であるともいえず自分が殺害した父親の娘である許嫁とも結ばれず、悶々とした日々を過ごす。

主人公は、不治の病に侵され、寿命の尽きんとするときに時に自刃する。そして兄妹に遺書を残して彼らの父親を殺害したことを白状する。父親を殺したことを告白できない主人公は結婚がかなわなかった許嫁に財産は全て渡るよう遺言する。勤務先には妻として届け出ていたのである。

菊池寛と言えば文芸春秋社の創立者であることや菊地寛賞があるなくらいしか私の頭になかったが、作家としての菊池寛の小説を読んで改めてその偉大さがわかった。彼の短編には人情の機微がふんだんに詰まっていた。代表作「父帰る」はまだ読んでいない。

(文責:岩澤信千代)