🗓 2021年10月16日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

新型コロナウィルス感染症が世界規模で蔓延したことによって、日本の薬局やスーパーの店頭から「不織布マスク」がなくなってしまったこと、その代案として安倍晋三首相が「布マスク」、いわゆる「アベノマスク」を全国民に配ったこと、振り返ればもう随分昔のような気がします。
 その頃は「不織布マスク」が極端に不足していたし、コロナウィルスについての知識が幼稚だったので、とにかく「マスク」であればなんでもいいという風潮でした。そのため「マスク」の作り方なども広まっていたし、個性的な「布(ガーゼ)マスク」もたくさん出回っていました。そういった知識不足が、「アベノマスク」配布の背景にあったのでしょう。また飛沫を防ぐためのフェイスシールドも一時脚光を浴びましたが、思ったほどの効果がないことがわかって、最近ではほとんど見かけなくなってしまいました。
 「不織布マスク」というのは、昭和48年から生産されましたが、花粉症対策に効果があったようです。使い捨て用ということで、とにかく安く生産するために、ほとんど中国の工場で生産されてきました。当時は世界的な需要がなかったこともあり、十分な量が日本に安定して供給されていたのです。ところが欧米で「マスク」着用が日常化した途端、日本への供給がストップしてしまいました。日本より高く買ってくれるのですから当然ですよね。
 最初はWHOも「マスク」の着用には懐疑的だったのですが、一変して「マスク」の効用を叫ぶようになりました(トランプ前大統領は今でも信じてないようです)。これが予想できていれば、大儲けも夢ではなかったのですが、それまで中国任せだったことで、すぐに日本で生産することもままならなかったようです。その結果、「マスク」の値段が十倍以上に跳ね上がりました。中国ではマスク長者も誕生したとのことです。
 最近になって、ようやく「不織布マスク」が安定供給されるようになったのに合わせて、今度は「マスク」の性能が問題視されるようになってきました。遂にスーパーコンピュター富岳によるシミュレーション結果まで公表されましたね。それによると、「布マスク」や「ウレタンマスク」ではデルタ株のウィルスを防ぐ効果が低いことが実証され、なるべく三層構造の「不織布マスク」を使うことが奨励されるようになりました。
 もちろん「不織布マスク」も万能ではありません。一番の欠点は、顔と「マスク」の間に隙間ができやすいことでしょう。たとえ不織布が飛沫を抑えるとしても、隙間から漏れたのでは十分な効果が得られません。そこで顔に密着させるためのノーズフィットの出番となりました。なるほどこれなら密着度がかなり高められそうです。
 ただし「マスク」そのものが日本人の顔(鼻)に対応しにくいのか、掛けているうちに鼻が出てしまう人が少なくありません。口を覆えば飛沫は飛びませんが、ウィルスは鼻からも出入りするので、鼻を覆わない「マスク」では十分な効果が期待できないのです。紐の長さを微調整できるような工夫も必要かと思います。とにかく鼻は出さないでください。
 幸い「マスク」業界も改良を重ねており、現在ではノーズフィット入りの平型だけでなく、より顔に密着してしかも呼吸しやすいプリーツ型や立体型も選べるようになっています。もちろん「マスク」の色も、白以外に何種類か選択できます。いずれにしても顔にフィットした「不織布マスク」をつけておけば、そう簡単に感染することはありません。もちろんあくまで確率の問題ですが、感染する確率をかなり低く抑えられます。
 それにもかかわらず、未だに「ウレタンマスク」にこだわっている人も少なくないようです。確かに不織布の肌触りは悪いし、呼吸ができにくいという人もいます。そんな人は医療関係者を見てください。もっと大変な現場で、きちんと「サージカルマスク」をしているではありませんか。今ならN95も購入できるので、是非購入することをお勧めします。あるいは薄いガーゼと「不織布マスク」を重ねるのも一案です。
 最後に「マスク」の最大の弱点として、食事の際にはずさざるをえないことがあげられます。最近では黙食という言葉が強調されていますが、どんなに楽しくても食べながらの会話は謹んでください(油断禁物!)。これからワクチン接種率がもっとあがるはずですが、それでもコロナを克服するまでには時間がかかりそうです。これから先も長く「マスク」と付き合っていかなければならないのだったら、上手な付き合い方を考えましょう。