🗓 2023年11月11日
吉海 直人
まずは質問です。「どんぐり」を漢字で書けますか。正解は「団栗」です。「団」は「丸い」という意味で、「団扇」や「炭団」と同類です。要するに「丸い栗」ということです。だから童謡「どんぐりころころ」は転がるのです。ただし「どんぐり」はあくまで総称で、「どんぐり」という名の木もないし、実もありません。
いわゆる「どんぐり」と称されるものの守備範囲は、予想以上に広いようです。大雑把にはブナ科の実、特にコナラ属のカシ・コナラ・カシワやシイ属・ブナ属の実の相総称とされています。その数は20種類以上もあります。
これを別の視点から分類すると、常緑樹と落葉樹に分けられます。シイやカシは常緑樹でブナやナラ・クヌギ・カシワは落葉樹ですが、むしろ雑木として細かく区別していない(できていない)のが現状かもしれません。もう1つ、少年の頃は夏になるとカブトムシやクワガタを捕まえに雑木林に入りましたが、クヌギの樹液に集まることを教わり、自然とクヌギの木がどこにあるかを覚えていました。
ここで少しばかり「どんぐり」の歴史を調べようと思って日本国語大辞典を引いてみると、古くは14世紀成立の『康頼本草』に「橡」の実のことを「とんくり」と表記していました。「つるばみ」なら『万葉集』にも歌われているし、『枕草子』や『源氏物語』にも用例があります。
なお「橡」はブナ科のクヌギですから、狭義としてはクヌギの実のことが「どんぐり」だったことになります。それが類似した実の名称にも広く使われたのでしょう。ただし「どんぐり」が一般化するのは江戸時代以降のようです。
この「どんぐり」は人間の生活にも密着しており、「どんぐりまなこ」とか「どんぐりの背比べ」とかと言われています。また宮沢賢治の『どんぐりと山猫』も有名ですね。何故人間の生活に密着しているかというと、それは太古から食用とされていたからです。
もちろんすべての「どんぐり」がすぐに食べられるわけではありません。ほとんどの「どんぐり」には渋柿同様、タンニンというアクがあるからです。ただしシイやブナの実はアクが少ないので、香ばしく焼けばすぐに食べられます。私も子供の頃、シイの実を生で食べてみたことがあります。それ以外のものは中の実を乾かし、粉にしたものを水にさらしてドングリ粉にします。これが飢饉などの際に食用にされたのです(曼殊沙華の根も同様でしたね)。
もちろん「どんぐり」は、人間以上に動物にとって大切な食料でした。縄文時代の発掘現場から「どんぐり」を貯蔵していた穴がしばしば見つかっています。また縄文土器は、「どんぐり」の貯蔵と灰汁抜きに使われていたともいわれています。近年、熊が人里に出没してニュースになっていますが、その原因は「どんぐり」の不作だとされています。「どんぐり」は「殻斗」(帽子)と固い「堅果」に覆われているにもかかわらず、意外に乾燥に弱く、落下したまま10日も経つと、もはや発芽できなくなるそうです。
りすやネズミやカケスという鳥などは、「どんぐり」を地中に貯蔵して冬の間に掘り出して食べますが、どこに埋めたのかわからないまま春を迎えるものもあります。それが暖かくなって芽を出すのですから、むしろ「どんぐり」はリスなどに食べられているというより、発芽を助けてもらっていることになります。これが自然の摂理なのです。
ところで韓国語で「どんぐり」のことをなんというか知っていますか。「トトリ」だそうです。これではあまり似ていませんよね。ところが古い韓国語で丸いことを「ドングル・イ」といったそうです。日本でも丸いことから「ダンゴグリ」といっていたのが「どんぐり」になったという語源説もあります。すると古くはかなり似ていたことになりそうです。
その韓国では、今も日本人以上に「どんぐり」を食す文化が根付いています。「どんぐり」が栄養価の高いスーパーフードであることを、日本人以上に熟知しているのでしょうね。