🗓 2024年10月12日
吉海 直人
みなさんは「風が吹けば桶屋が儲かる」という言い回しを聞いたことがありますか。私も小さいころ、父が得意そうに講釈している姿を今でも覚えています。これを「デジタル大辞泉」で調べてみたところ、
とありました。「風が吹けば」から「桶屋が儲かる」までにいくつもの紆余曲折があるので、簡単には結びつかないところが面白いのでしょう。まるで落語みたいですね。
ではこれはいつごろから言われているのかご存じですか。いろいろ調べてみると、明和五年(1768年)に刊行された『世間学者気質巻三』(無跡散人著)が出典としてあげられていました。そこには三郎衛門が金の工面を思案するくだりに、
とありました。
また十返舎一九の『東海道中膝栗毛二下』(享和三年)にも、
と引用されていることがわかりました。ただし箱を売って儲かったわけではありません。「ひとつもましない」とあって、儲からなかったことがわかりました。ついでに小学館の新編日本古典文学全集で確認してみたところ、頭注に、
というありがたいコメントが施されていました。これによれば明和五年の『世間学者気質』よりもっと前の宝暦五年(1755年)まで初出が13年も遡ることになります。
それだけではありません。現在は「桶屋が儲かる」で統一されていますが、江戸時代にはむしろ「箱屋」とあったことがうかがえます。『世間学者気質』も『東海道中膝栗毛』も箱屋ですね。一番古い『笑話出思録』では「厨箱巧(さしものし)」ですが、指物師・箱屋・桶屋は似たような職業なのでしょう。そのため「箱屋」が後に「桶屋」に転じたとされています。
それだけではありません。調べているうちに、「風が吹けば桶屋が儲かる」に類似した「大風が吹けば桶屋が喜ぶ」という言い方もあることがわかりました。ただしどちらが先でどちらが後なのかはわかりません。