🗓 2019年10月16日
吉海 直人
新島(山本)八重を主人公とする大河ドラマ「八重の桜」(2013年)は、6年経った今も印象深く心に残っている(襄役はオダギリジョー、覚馬役は西島秀俊)。これまでの大河ドラマとは違って、八重は歴史的にほとんど無名の人物(ただの人)だったので、原作などあるはずもない。東北震災からの復興を応援するためとはいえ、NHKはかなりの冒険をしたのではないだろうか。
その八重を熱演したのは、大女優綾瀬はるかさんだった(幼少期は鈴木梨央)。気性はともかく、体型と顔は全く似ていないというのが正直な感想である。それについて新島研究家の本井康博氏がおっしゃるには、代々八重役は美人女優が演じることが多かったとのことだった(『ハンサムに生きる』)。では、これまでどんな女優さんが八重役を演じてきたのだろうか。
その点についてまず確認しておきたい。真っ先に顕彰したいのは、10年前にNHKで放映された歴史悲話ヒストリア「明治悪妻伝説初代“ハンサム・ウーマン”新島八重の生涯」(2009年)である。これはドラマではないが、渡辺(黒田)あゆみさんの独特のナレーションで、宝生舞さんが八重役を熱演していた(襄役は炭釜基孝)。それから、もう35年近くも前になるが、「女のたたかい─会津そして京都─」(1985年)では、栗原小巻さんが八重を演じて評判が良かった(襄役は滝田栄、覚馬は平幹二郎)。これは同志社内での評判かもしれないが。
また日本テレビの「白虎隊」(1986年)では、亡くなった元キャンディーズのスーちゃんこと田中好子さんが八重役で出演していた(覚馬役は竜雷太、川崎尚之助役は田中健)。さらに12年前に放映されたテレビ朝日の山下智久主演「白虎隊」(2007年)では、中越典子さんが八重役だった(覚馬役は松重豊)。彼女は顔の輪郭など何となく八重に似ていたかもしない。その他、新橋演舞場で行われた「夢ある限り」(1994年)という山本覚馬の芝居では、吉沢京子さんが八重役だったそうだ(私は吉沢京子さんの大ファンである)。こうしてみると、確かに八重役は美人揃いと言えそうだ。
もちろん例外もある。ちょっと毛色の変わったところでは、日本テレビの日本史サスペンス劇場「会津藩の女たち」(2009年)で、なんと森三中の大島美幸さんが八重役だった。美人かどうかはさておき、イメージとしてはまさにピッタリではないだろうか。「相撲取りのように肥えていた」と悪口をたたかれたこともある八重なのだから。
それでも今回の「八重の桜」が、強烈な八重像を構築したことは間違いあるまい。綾瀬はるかさんの戦闘姿や看護師姿は、今も心に深く刻まれている。その綾瀬はるかさんの熱演で、これから八重を演じようという女優さんはちょっと大変かもしれない。それでもまた新たな女優さんに新たな八重像を創出してもらいたい。脇役でもいいから、再び八重がドラマに出演することを心から願っている。もちろん覚馬や尚之助が主役のドラマでも構わない。