🗓 2024年10月05日
吉海 直人
敬老の日に因み、「老人」の類義語を探してみました。すぐに思い浮かんだのは「老体・年寄り・高齢者」などです。「年寄り」という言い方には、微妙なところでマイナスのニュアンスが含まれている可能性がありそうです。ですから「年寄り扱いするな」と反発を招きかねません。私もとっくに年寄りの仲間ですからよくわかります。
「高齢者」という言葉もよく目にします。公的な文書で使われることが多いからでしょう。現在の日本では、65歳以上の人を「高齢者」という用語で呼んでいます。多くは既に定年退職して年金暮らしをしている人のことです。中には70歳を超えて、現役で活躍している人もいます。
かつては60歳でも十分高齢でした。だから還暦のお祝いをしていたのです。ところが近年、平均寿命がぐんと延びたことで、それに合わせて定年も延びてきました。60歳はまだ現役です。年金ももらえません。60歳台で亡くなろうものなら、まだお若いのにお気の毒といわれそうです。もはや60歳は短命(ひよっこ)の部類に入る時代なのです。
ところでこの「高齢者」には大きく二種類あります。まず74歳未満は「前期高齢者」、75歳以上は「後期高齢者」として区別されています。65歳過ぎたら、気ままな年金暮らしを夢見ていました。ところが高齢化社会に突入した今、年金は減額されるし、介護保険料は徴収されるしと、「高齢者」にとって住みにくい世の中になりつつあります。それは高齢者だけではなく、若い人たちの負担も増大していますよね。
このところ話題にされている「老々介護」というのは、「高齢者」になった子供がそれでも「高齢者」の親や兄弟・配偶者の介護をすることです。さらに「認々介護」は、認知症の「高齢者」が認知症の「高齢者」家族の面倒を見ることだそうです。それだけ日本における「高齢者」の比率が増加したのでしょうね。
それはさておき、日常でもっとも頻繁に使われているのは、やはり「老人」という言葉ですね。一人暮らしになった人は「独居老人」、入居する施設は「老人ホーム」といわれています。少年・青年の並びとしては、「老年・高年」があります。その他、「老体」というのは老いた体で、別に「老骨・老躯」ともいいます。ただし「高齢出産」というのは35歳以上の女性が対象ですから、決して高齢者ではありません。「年配(年輩)・熟年」というのは、必ずしも「高齢者」を指しているわけではありません。
ストレートに「じいさん・ばあさん」という言い方もあります。あえて横文字で「シルバーエイジ」(ゴールドエイジ・プラチナエイジ)とか「シニア世代」といわれることもありますが、これはまだ現役で何かをやっている人もが含まれています。もちろん基本は退職している人です。それだったら「隠居」も加えてよさそうです。かつて「ロートル」という言い方がありましたが、なんとこれは英語ではなく、「老頭児」という中国語がもとになっているのだそうです。
ついでに「老」という字の付く熟語を調べてみると、最近目立つのは「老害」でした。NHKテレビでは「老害の人」(内館牧子著)も放映されましたね。それ以外に「老練」「老獪」「老兵は死なずただ消え去るのみ」などというフレーズもあげられます。「老化・老眼・老朽化」にはやはりマイナスのイメージがありそうです。「老化」は「加齢」とも言い換えられます。特に「加齢臭」といういやな言葉が目につきます(カレーにも聞こえます)。年を取ると「老化現象」が生じ「老人病」「老齢疾患」が発病します。それを横文字で「エイジング」と表現しています。最近では「アンチエイジング」をめざす商売も出てきました。
「老成」にはさほど悪いイメージはなさそうです。まして「長老」というのは社会で指導者的な立場にある老人ですし、「故老」というのは村の物知りの老人のことです。「亀の甲より年の巧」ということわざもあります。かつては「老中」「家老」「元老」という高い地位をあらわす言葉もありました。
女性をあらわす「老女」「老婆」の対としては、「老夫」「老爺」があります。「老男」は何故か「およしお」と読まれています。「老婆心」というのは、分解すると「老婆」の心ですが、それが転じて性別に関係なく、目上の人が目下の人にへりくだっていう言葉になっています。かつて「姥捨て山」という弃老伝説がありましたが、この場合の「姥」は必ずしも女性に限定されてはいません。
直接「老」という字を用いなくても、たとえば「眉雪」というのは眉毛が雪のように白いということなので、老人の比喩表現になっています。ただし「白眉」という場合は、若くて眉だけが白くなっている人のことですので、混同しないようにしましょう。
以上、「敬老の日」にちなんで思いつく限り「老人」の類義語をあげてみました。