🗓 2025年03月15日
吉海 直人
百人一首かるたの研究をしていて、「カルタ」がポルトガル語であることを知りました(英語は「カード」です)。日本の伝統的な文化だと思っていたものに、外来の文化が混入していたのです。それは室町時代にポルトガルと盛んに交易していたことで、ポルトガルの言葉や製品がたくさん日本にもたらされていたからです。「種子島」(火縄銃)や「カルタ」はその代表的なものの一つといえそうです。そこで日本に定着しているポルトガル語が気になってきました。
調べるまでもなく、現在長崎銘菓として有名な「カステラ」(カスドース)や、信長の好物だった「コンペイトウ」(金平糖)、日本食と思われている「テンプラ」も「バッテラ」もポルトガル語由来とされています。もっと探せば「ビスケット」・「ボーロ」・「キャラメル」(カルメラ)・「パン」・「ザボン」(ブンタン)・「カボチャ」・「ユウヘイトウ」(有平糖)・「コロッケ」なども候補にあがってきます。もちろんスペイン語やオランダ語の可能性もありますが、最もふさわしいのはポルトガル語でしょう。
食べ物以外で知られているのは、衣類関係の「ズボン」・「ボタン」(釦)・「カッパ」(雨具)・「ジュバン」(襦袢)・「ラシャ」(羅紗)・「メリヤス」・「サラサ」(更紗)・「ビロード」(ベルベット)などです。その他、「ブランコ」・「ベランダ」・「シャボン」・「コップ」・「チャルメラ」・「フラスコ」・「ジョウウロ」(如雨露)・「タバコ」・「ミイラ」・「トタン」・「ビードロ」(ガラス製品)・「ビー玉」(ビードロ玉)などもそうだといわれています。思っていた以上にたくさんありますね。
ただし「カボチャ」の語源は、カンボジア(国名)とされています。その原産地はメキシコでした。おそらくポルトガルの海外貿易によって、カンボジア経由で日本にもたらされたことで、経由地が野菜名として定着したとされています。なお九州ではカボチャのことを「ぼうぶら」ともいいます。民謡の「おてもやん」に「春日ぼうぶらどん」と出ているので、耳にしたことはあるかと思いますが、これも方言ではなくポルトガル語でした。
ポルトガル語の影響は九州だけに留まりません。京都の有名な先斗町、ポントチョウと読みますが、その「ポント」も先端・端を意味するポルトガル語とされています。最近では、カルタ賭博用語にある「ポント」が由来になっているという有力な説も発表されています。賭博用語といえば、ピンからキリまでの「ピン」(一)・「キリ」(十)やおいちょかぶの「オイチョ」(八)もポルトガル語でした。ポルトガルからカルタが伝来したのですから、カルタ用語に多いのも納得できます。
もちろんキリスト教に関係する用語もたくさんあります。室町期に日本にやってきて布教したイエズス会は、ポルトガル王の庇護を受けていたのですから、これも当然でしょう。真っ先に「キリシタン」があげられるし、「デウス」・「キリスト」・「バテレン」・「イルマン」・「クルス」・「セミナリオ」・「オラショ」・「ロザリオ」・「オルガン」などもあげられています・船長を意味する「カピタン」もポルトガル語です。「イギリス」・「オランダ」・「トルコ」・「ビルマ」といった国名も、ポルトガル経由で日本に入って定着したものです。
俄には信じがたいかもしれませんが、おんぶにだっこの「おんぶ」もポルトガル語(肩の意味)という説があります。もともと日本になかったものですから、外来語がそのまま受け入れられたのでしょう。逆に日本語がポルトガル語になった例はないのでしょうか。調べてみると、茶・着物・屏風・侍・芸者・豆腐・生け花・刺身・寿司などがあるそうです。貿易しているのですからこれも納得できます。