🗓 2019年11月26日

客引き

 
 「ぼったくりキャバレー」を書いていて、同じような失敗を思い出した。
 それは後輩の結婚式前夜のことである。場所は新宿歌舞伎町。その頃、我々は群馬県の桐生支店に勤務していた。後輩がその頃できたばかりの新宿西口のホテルで結婚式を挙げた。我々数名は「前祝」ということで結婚式の前夜飲みに繰り出したのである。しかし、なじみの店はないのでどこの店に入るかとぞろぞろ探し回っていた。その時歌舞伎町名物である有名な「客引き」に声を掛けられ、あるスナックらしき店に入った。前のキャバクラと同じように我々以外に客がいない。隣のボックス席で怖い目つきをした二人だけが飲んでいた。いざ帰ろうとなって清算しようとしたら、4.5名であったが請求額は十数万円であった。勿論我々には金の持ち合わせがない。けんかっ早い同期のS君が店を出て客引きと口喧嘩になった。しかし、明日結婚式の主役である新郎が怪我をしたら、結婚式が台無しになる、我々5人と客引きとのにらみ合い、S君は相手の胸倉をつかんで離さない。ここで、年長者でもあり役職も課長であったMさんが「ちょっと待っていろ。」と我々に言い残していなくなった。怖い目の「客引き」がどんどん増えて我々を取り囲んだ。
 万事休すといったところだが、30分ほどして課長が戻ってきて店の支払いを済ませた。
 それで、翌日の結婚式に新郎の顔に傷一つなく送り出せた。課長がどういう風に金を工面してきたのか課長も黙して語らずであったが、銀行でおろしてきたのだろうか。我々には不明である。
 その代金を後日割り勘にしたのかどうかも覚えていない。

その課長と喧嘩っ早いS君とは桐生のスナックで朝の4時くらいまでよく飲んだ。S君と私は課長代理であったので3人で時間を忘れてカラオケをして、2時間くらいの睡眠で翌日何食わぬ顔で仕事をしていた。今だったら間違いなく自殺行為になる酒の飲み方であった。また、桐生市には一部上場企業があまりなく、初めて行った店でも勤務先名を言うと簡単にツケで飲ませてくれる。別なA課長には、ボーナス時期になるとそのツケ払いによく付き合わされた。半年分のツケを払うのだが、払いに行った日の飲み代は即日ツケになり、またツケが続くのである。A課長の後任がM課長なのだが、部下は上司を見て育つ。私もいつの間にかボーナスごとに60万くらい支払う月給取りになっていた。最も課長代理で管理職の手前の職分であったが、残業手当がついたので年収は1000万を超えサラリーマン27年の間で一番多かった。その頃バブル当時でもあり支店では一日で1億円の手数料収入が実現できたこともあり、それで店内改装をした。その後リーマンショックなどを経て日本経済の弱体化に伴い給料は見事に下降線をたどっていった。であるから、管理職になる前の30歳前後の給料が一番良かったのである。

このように酒での失敗は数多くあれど、高血圧、高血糖で医者からアルコール・タバコを制限されている今の自分を顧みるときに、群馬県桐生市であの一番飲んだ時期に貯金をしっかりしておけばよかったと反省しきりである。かなりの金額を胃袋にしまい込んだことは確かである。桐生支店在籍5年間で1か月の船旅を女房にプレゼントできるくらいは飲んだだろうと思う。

(文責:岩澤信千代)