🗓 2023年09月09日
吉海 直人
「かかりつける」という言葉は、普段はあまり口にしませんよね。というより、これは「かかりつけの医師」「かかりつけ医」に限定される表現であり、それ以外の用法は見当たりません。最近、「かかりつけの薬局(薬剤師)」という表現を目(耳)にしましたが、これは「医師」から「薬剤師」にスライドされただけのものです。
ところで、みなさんには「かかりつけのお医者さん」(ホームドクター?)がいますか。あるいは「かかりつけの病院」はありますか。私は案外病気にかからないし怪我もしないので、滅多に(一年に一度も)病院には行きません。ですから「かかりつけの医師」といわれても、心当たりがありません。これまでそのことに不安や後ろめたさを感じたことは一度もありませんでした。それがここにきて不安材料になりつつあるのです。
そこで質問です。この「かかりつけの医師」は、患者側が必要としている存在なのでしょうか。それとも医師会側が求めている制度なのでしょうか。そう考えた時、どうやら日本医師会がこれを推進しているということが見えてきました。つまり患者側の大半特に若い人たちは、必ずしも「かかりつけの医師」がいなくても、必要に応じて病院を選択する場合が多いようなのです。そもそも基礎疾患のない健康な人にまで「かかりつけの医師」を求めるというのは奇妙というか理不尽ですよね。なんだか健康なことが悪のようにいわれている気がします。医師会はマイナンバーカードに便乗して、日本中の人をすべてどこかの病院に登録させたるつもりなのでしょうか。まるで江戸時代の寺請制度のように。
これに関して、興味深い調査報告がありました。厚労省がまとめた2020年の調査によると、五百床以上の大病院を受診した人の約四割が、最初から大病院を受診していたというのです。それに対して日本医師会の目論見は、最初に「かかりつけ医」(開業医)を受診し、そこで紹介されてから次に大病院の専門医に見てもらうという二段階受診方式のようです。要するにこの報告によると、現時点で国民の半数近くには「かかりつけの医師」などいないし、その必要も感じていないことが読み取れます。「かかりつけ医」制度は、日本ではまだ十分浸透・定着していないのです。もっと時間をかけて、そのメリット・デメリットを議論すべきではないのでしょうか。少なくとも「かかりつけ医」を必要としている人と、そうでない人が混在している現状を理解してほしいのです。世の中の人は患者と医師だけで成り立っていないはずです。
ところがご承知のように、コロナウィルス蔓延の中、医療関係者の負担を軽減する策として、時期尚早と思われる「かかりつけ医」が声高に叫ばれ、一方的に国民に押し付けられました。例えばワクチンの予防接種は「かかりつけ医」のところで受けてくださいとか、発熱外来は「かかりつけ医」に相談してくださいとか、診察を受けた際に予防接種の予約をしてくださいとか、すべての人に「かかりつけ医」がいることが前提で制度化の話が進められているように思えてなりません。そうなると、あまりお医者さんの世話にならない私のような人間は、「かかりつけ医」がいないことが大きなマイナス要素となります。たまたま発熱した際、近くの病院へ問い合わせても、診察券を持っていない私は、即座に「かかりつけ医」でないことを理由に検査を断られてしまいました。
コロナ禍によって、「かかりつけ医」制度は、いやおうなしに定着する方向に向かいそうです。もちろん持病・疾患のある人とか通院の必要がある人にとっては非常にメリットのある制度だと思いますが、そうでない人にまで「かかりつけ医」を求めるのはいかがなものでしょうか。幸い私の熱は下がりました(コロナ感染ではありませんでした)が、病気でもないのに医師にかかって診察券を発行してもらい、「かかりつけ医」の患者として登録しなければならないのでしょうか。「何かあった時」「困った時」のための「かかりつけ医」には矛盾を感じてしまいます。
特にこれからのワクチン接種は、集団接種が受けられなくなったこともあって、どこでやってもらえばいいのか悩んでしまいます。「かかりつけの医師」がいない人もいることを理解していただけないでしょうか。というより歯医者さんでは三か月に一度歯石を取ってもらっています。ということで、私にも「かかりつけの歯医者さん」はいます。それに近いことがあれば、私にも「かかりつけの病院」ができるはずなのですが、そういったことは現在どこまで行われているのでしょうか。
いずれ遠からず高齢者になれば、いやでも「かかりつけの医師・病院」のお世話になるでしょうから、せめてそうでないこの短い期間くらい、医者と患者という関係ではなく、予防のためのお付き合いをしたいものです。