🗓 2024年03月30日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

最も短い短詩型文学として、日本の俳句が日本のみならず世界的広がりをも見せています。平成以降の調査ですが、俳句雑誌を定期的に刊行している小さな結社だけでも、全国に八百から千はあると推定されているほどです。
 結社の歴史としては、正岡子規のホトトギスがよく例にあげられていますね。全国規模の組織としては、遅れて昭和15年に設立された日本俳句作家協会があります。続いて戦後の昭和22年には現代俳句協会設立され、「表現の自由を前提とする現代俳句の向上」をめざしています。
 当然のことながら無季俳句や前衛俳句を容認するのか、それとも伝統的な有季定型を堅持するかの違いから、あらたに昭和36年に俳人協会が設立されています。それ以外に、昭和32年には交互俳句協会、昭和39年には全国俳誌協会なども設立されています。もっとも新しいのが昭和62年に発足した日本伝統俳句協会です(平成24年公益社団法人)。
 その後、俳句の国際化が進むと、それに対応するために俳句の三大協会とされている俳人協会・現代俳句協会・日本伝統俳句協会が提携して、平成元年に国際俳句交流協会が新設されました(現在は国際俳句協会)。それとは別に平成12年には世界俳句協会が新設され、さらに平成30年には日本俳句協会が設立されています。これはインターネットに特化した進化系の組織でした。
 現在、こういった空前の俳句ブームが訪れている背景には、大学の俳句研究会の活動もあげられます。また複数の大学が高校生を対象にした俳句コンテストを開催していることも大きいようです。また平成元年から続いている伊藤園のお~いお茶新俳句大賞や、平成10年から開催されている俳句甲子園によって、若者たちが俳句に触れる機会が増加していることも大きな要素でしょう。その審査員の一人である夏井いつきさんが熱演している毎日放送のバラエティ番組「プレバト」の大ブレイクもあって、俳句に対する関心は異常なほどに盛り上がっています。
 ただしそれはあくまで日本の事情です。どうやら外国では、それ以上にHAIKUが広がりを見せているらしいのです。もはや日本語の575にこだわらず、というより日本語の一字一音は外国語に置き換えられるものではありません。そのため外国語による俳句ならぬHAIKUが、世界中で大流行しているのです。これは故有馬朗人(前国際俳句交流協会会長・前文部大臣)の外交力によるところが大きいのかもしれません。
 こういった外国人によるHAIKUは、ある意味前衛俳句であり有季定型から逸脱しているのですが、これに対して日本伝統俳句協会は必ずしも反対を表明しておらず、むしろ積極的に国際化を邁進しているように見えます。文語・旧仮名遣いを遵守する方針と矛盾しないのでしょうか。あるいは外国語のHAIKUはまさにHAIKUであって、俳句とは一線を画していると見ているのかもしれません。
 ところで俳句の歳時記は、日本の四季が生み出した独自のものであり、外国の四季とは相違しています。地球規模で見ると、たとえば北半球と南半球では季節が逆転しているし、四季に富む日本とは季節感を共有できない国も少なくありません。そうなると季語の定義も従来通りではいかなくなりそうです。
 それでも俳句の国際化は、もはや止められない流れになっています。それが短詩型俳句の魅力なのかもしれません。歩み寄りの方法として、外国語で読まれたHAIKUを日本の俳句に翻訳するということも既に行われていますが、それは日本人には理解できても、外国人には通用しそうもありません。
 安易な前衛・無季を容認するのではなく、国際俳句としての季語・定型をどのように確立し制度化(ルール作り)していくのか、これが国際化を進める国際俳句協会の当面の課題でしょうか。