🗓 2023年12月02日
吉海 直人
若い人は知らないでしょうが、昔の五十円玉はかなり大きいサイズで、今の五百円玉に近いものでした。しかも材質がニッケル100パーセントだったので、なんと磁石にくっつきました。現在、磁石にくっつく硬貨は日本にはありません。純度の高い鉄かニッケルでなければくっつかないからです。
最初に五十円硬貨が発行されたのは、昭和三十年のことでした。表が菊の花、裏には分銅がデザインされています。直径は25ミリですから、今の五百円玉(26.5ミリ)より一回りだけ小さいものでした。もっとも、当時五百円玉はまだありませんから(昭和57年発行)、発売当初は一番大きなコインだったことになります。
面白いことに、初代の五十円玉には穴があいていませんでした。昭和34年にデザインが変更された際、ようやく6ミリの穴のあいた二代目五十円玉が発行されたのです。穴ナシの重さは5.5グラムでしたが、穴あきは5グラムなので、0.5グラムも軽くなっています。しかしこの穴あき硬貨の寿命も短く、昭和41年には製造中止になっています。
そして翌42年に、現在も流通している小さな五十円玉が発行されました。直径が一気に21ミリになったことで、十円玉(23.5ミリ)どころか五円玉(22ミリ)よりも小さくなりました(穴の直径は4ミリ)。かろうじて一円玉(20ミリ)よりは大きいことになります。材質も白銅(銅75パーセント・ニッケル25パーセント)になったことで、もはや磁石にはくっつきません。ただしこれは息の長い硬貨で、発行から55年以上経った現在もそのまま使われ続けています(一円玉は昭和30年から現行のままです)。
何故ニッケルから白銅になったかというと、原材料の高騰以外に二つの理由があげられます。一つは自動販売機にニッケル硬貨を使うと、故障しやすいからだそうです。もう一つはちょうどこの年、百円銀貨が白銅貨に変更になったことです。百円と五十円が同じ材質なのに、五十円の方が大きかったらおかしいので、その際、百円(22.6ミリ)より一回り小さくしたというわけです。
要するに五十円玉は、百円玉の改訂に引きずられて改訂されたのです。これで鉄道の券売機が一挙に広がりました。もう一つ、百円玉に合わせて、製造年の元号表記が、従来の漢数字からアラビア数字に変わっています。これも百円玉と五十円玉だけの特徴とされています。ということで現在、穴の空いた硬貨は五十円と五円の二種類だけです。日本では珍しくもありませんが、外国で穴のあいたコインはほとんど発行されていないことは先にいいました。もしニッケル硬貨が今でも使われていたら、それこそ土産品として喜ばれたことでしょう。
では五十円玉に穴が空けられた理由はご存じですか。一つは百円玉と簡単に見分けられるようにとの配慮からです。この場合、低額の方に穴を空けるのだそうです。ただし財布の中に入っていると、即座に判別するのは難しいようです。もう一つは、偽造防止の効果があるといわれています。ただし小額コインでは儲けが少ないので、偽造されることはほとんどありません。
ついでながら、二代目の穴あき五十円玉を別にして、初代と三代目には周囲(側面)にギザがついています。これもあまり知られていないようですが、明治以降に発行された日本の硬貨の中で、側面にギザがあって穴が空いているのは、なんとこの五十円硬貨だけだそうです。気が付いていましたか。
これからはキャッシュレスの時代になります(自動販売機もコンビニも)。この先、お金を使う機会はどんどん少なくなっていきそうです。貨幣(コイン)の未来はもはや閉ざされているようです。