🗓 2024年10月26日
吉海 直人
新幹線から京都タワーが見えると、あっ京都に来たんだなと実感します。そんな人は多いはずです。では肝心の京都タワーについてはどうでしょうか。みなさんはあの形から何を想像しますか。私は本願寺をはじめとしてお寺の多い京都だから、きっと蝋燭の形をしているんだと信じていました。
そこであらためて京都タワーについて調べてみたところ、意外なことがわかったのです。その前に質問です。みなさんは「灯台もと暗し」ということわざはご存知ですよね。ではその「灯台」とは何のことでしょうか。答えは大きく二つに分かれます。一つは海を照らす灯台ですね。もう一つも灯台ですが、こちらは室内を照らすために油の火を灯すものです。どちらが古いかというと、当然室内用照明の方がずっと古くから日本にありました。
その室内用照明に準ずるものが燭台、つまり和ろうそくを立てる台です。周りに海のない京都市内ですから、ろうそくを連想するのが自然ですよね。堂々と「お東さん(東本願寺)のろうそく」といっている人もいるくらいです。だから勘違いしても不思議ではありません。
この京都タワーは、昭和39年に完成しました。デザインしたのは、建築家として著名な山田守さんです(設計は京都大学工学部)。むしろ海のない京都の家々の瓦屋根を波に見立て、その町並みを静かに照らし続けるというコンセプトでした。それだけではありません。京都タワーの地上からの高さは131メートルですが、それは当時の京都市の人口131万人に合わせたのだそうです。東京のスカイツリーの634メートルにしてもムサシ(武蔵)の語呂合わせだですよね。
ところで昭和39年といえば、ちょうど東京オリンピックが開催された年です。それにあわせて東海道新幹線も開通しました。そのことを踏まえて、国際観光文化都市としての京都の玄関口にふさわしいランドマークとして建てられたのが京都タワーなのです。この京都タワーにはいくつかの特徴があります。まず東京タワーのような鉄骨を組み合わせたトラス構造製ではないことがあげられます。ご覧になればおわかりのように、塔は円筒形の鋼板を溶接してつなぎ合わせたもので、「モノコック構造(応力外皮構造)」といわれているものです。
これは軽量の割には安全性が非常に高いものといわれています。よく見ると京都タワーはビルの屋上に800トンのタワーが乗っかっていることがわかります。それでも大丈夫なのです。これまで何度も台風や地震に見舞われましたが、びくともしていません。ただ1993年に公開された映画「ゴジラVSメカゴジラ」では、ゴジラの吐く熱線によってあえなく破壊されてしまいました。もちろんこれは映画の中だけのフィクションです。
もう一つの特徴は、地上100メートルの展望台が設けられていることです。これは当初の設計にはなかったのですが、当時できていた横浜のマリンタワーの展望台から着想を得て、あらたに付け加えられたそうです。ここからの360度の大パノラマは見ごたえがあります。町並みだけでなく、雲の動きも見てください。
ところでこの展望台には二つのトピックスがあります。一つはゆるキャラの「タワワ」ちゃんがいることです。これはタワー開業四十周年の記念として、2004年に正式に採用されました。さらに五十周年の2014年には、「たわわちゃん神社」まで創建されています。この神社は、京都で一番高いところにある神社ということになります。
もう一つは、毎年春・秋に「京都タワー階段のぼり」が開催されていることです。もちろんエレベーターは使わず、通常は非公開の階段を使って、十一階から展望室までの355段をのぼるという企画です。参加の条件には「体力に自信のある方」とありますが、一度挑戦してみてはいかがですか。
なお京都タワーが建設されている時、市民からは反対の声もあがっていました。その中には、京都に東寺の五重の塔を超える高い建物を作ると祟りがおこるというものもあったそうです。東寺の五重塔は55メートルですから、その倍以上の高さですね。また開業後も、神社仏閣を上から見下ろすのは罰当たりだといわれたそうです。
最後に残念な報告です。京都タワーは昭和39年から令和に至るまでの五十五年間、京都で一番高い建造物でした。ところが開業六十周年を目前にした2019年に、KBS京都がラジオ送信塔として久御山に「くみやま夢タワー137」を建てました。これは高さ137メートルなので、京都タワーより6メートル高いことになります。これによって京都で2番目に高いタワーになってしまいました。ちょっと残念ですね。