🗓 2025年01月18日

吉海 直人

二〇二五年の干支は乙巳(きのとみ)です。十二支の六番目ですが、どうして六番なのかはわかっていません。そこで漢字から攻めてみます。まず「乙」は未だ発展途上の状態を表し、「巳」は植物が最大限まで成長した状態を意味します。この干支の組み合わせによって、これまでに蓄積してきた努力や準備がようやく実を結び始める時期であることを示唆しています。多くの人にとって、巳年は成長と結実の時期となる可能性が高いのです。
 さらに「巳」という漢字は、蛇の象形文字といわれています。蛇が冬眠から覚めて地上に這い出る姿を表しているともいわれており、そこから「起こる・始まる・定まる」意味があるとされています。また頭と体ができかけた胎児の状態を描いた象形文字だともいわれています。中国の『漢書』律暦志によると、巳は「已」(い・止む)と通じているそうです。人間でいえば、それまでの生活に終わりを告げて、新しい生活が始まるという意味になります。実は私も巳年生まれなので年男になります。もっとも昔は還暦までで、その後の年男など想定されていなかったようです。無事に正月を迎えられただけで儲けものです。
 年男にはもう一つ、正月の行事を担う意味もあります。正月行事の年男は、門松の準備や神棚の飾り付け、若水を汲むなどの正月の歳神様を迎える役割を担う人物です。また旧暦では、節分の行事も正月行事の一部とされていました。それで正月行事を担う年男が、豆まきも担当していてあのです。それが新暦によって正月と節分が分離したために、年男による豆まきが新たな風習のようにうつるのです。
 日本では、『古事記』にあるヤマタノオロチ退治をはじめ、多くの神話や民話に蛇が登場しています。ただし現在では、チロチロと舌を出しながらニョロニョロ・クネクネと動く蛇は、どちらかというと不気味だとか恐ろしいと受け取られています。それと反対に、脱皮を繰り返して成長するところは、復活・再生・不老長寿や金運向上のシンボルとして、古来縁起の良い生き物ともされてきました。特に白蛇は弁財天(弁天様)のお使いとされており、信仰の対象として幸福をもたらすシンボル(神の使い)として尊ばれています。
 言語遊戯的に、「巳」は「実」と同じ読みなので、そこから「実(巳)入りがいい(金が手に入る)」ともいわれています。縁起担ぎに脱皮した蛇の抜け殻を財布に入れたり、蛇皮の財布を金運のアイテムとしているのはそのためでした。
 なお金運を願う人は十二日に一度めぐってくる「巳の日」を選んで、神社にお参りするといいとされています。宝くじ売り場では、「本日巳の日」と張り紙を出し、販売増を促進しているところもあります。この「巳の日」の中でも特に金運に良いとされるのが、六十日に一度の「己巳の日」です。その日、各地の弁天様は多くの参拝客で賑わうとのことです。
 京都左京区鹿ケ谷(哲学の道)にある大豊神社は、狛犬ならぬ狛ねずみで有名ですが、実は医薬の祖神である少彦名命もお祀りしており、そのため珍しいとぐろを巻いた狛へびもあります。本殿に向かって右側の蛇が白色で、口を開けています。左側の蛇は黒色で、口を閉じており、ちゃんと阿吽の姿をした狛蛇になっています。是非金運上昇のお参りに行ってみませんか。
 ついでに蛇に関する教養テストです。みなさんは蛇が出てくることわざや格言をいくつあげられますか。「蛇足」は中国の故事ですね。「竜頭蛇尾」は期待外れの感があります。「藪蛇」は「藪をつついて蛇を出す」のことで、やらなくてもいいことですね。「蛇に睨まれた蛙」は身がすくんで動けなくなります。「蛇の道はへび」は同類には同類のことがわかるという意味です。こうしてみるとあまりいいことわざはありませんね。
 もう一つ、みなさんは「巳」「已」「己」の違いがわかりますか。というよりちゃんと使いわけられますか。三つとも類似していますが、よく見ると縦棒が上までか中までか下までかで読みも意味も違ってきます。「巳」は音読みが「シ」で訓読みが「ミ」です。これが干支の「へび」なので、「へびと」読んでも構いません。「已」はむことも可能です。「已」は音読みで「き」、訓読みで「すでに」です。三つ目の「己」は音読みが「き・こ」で、訓読みは「おのれ」になります。十干では「つちのと」ですから、「巳己」は「つちのとみ」となります。前述のように、この日は弁財天の縁日でした。