🗓 2019年09月11日
新婚旅行
私達が結婚する当時、新婚旅行はハワイが流行っていた。金もないしどうするかと迷っていると、徳島の造り酒屋の次男坊で同期入社の同じ支店に配属されたでSくんがJR(そのころは国鉄と呼ばれていた)の周遊券を使うと安く旅行できるとアドバイスをくれた。
今でもそこを選んだのは何故かわからないのだが、「伊勢、志摩」方面を選んだ。旅館は予約せず、適当に旅行してその日に宿泊場所を予約して泊まるという全く計画性のないものであった。「鳥羽水族館」など一通り旅行の名所を回ったのだが、写真を見ないとどこに行ったのか思い出せない。伊勢神宮へは行ったと思うが確信はない。思い出せるのは場所がわからないのだが、円筒形のホテルである。ドアを開けるや女房がかなりの拒絶を示したのである。何故か?私も足を踏み入れてびっくりした。まさに部屋が扇形なのである。四角や長方形に見える場所はない。それ以前にも以降にもあの形の部屋に遭遇していない。料金は安いし、別の旅館の予約をするのはもったいないし、雨が降っているので別の旅館を探し回るのも嫌だし、とりあえず宿泊したのであるが、女房が熱を出した。部屋の形に熱を出したのではなく、本当に風邪をひき高熱を出したのである。
さすがに新婚旅行なので、ケチってばかりじゃまずいだろうと、最終日には宿泊費は東京の高級ホテル並みに高かったが「伊勢・志摩観光ホテル」を予約した。夕食はそこのホテルで食べたのだが、コース料理は高いので、オードブルの「伊勢海老」を頼んで二人仲良く食べた。当時のお金で一皿5,000円以上したと思うが、これは大変おいしかった。高熱を出してうなっていた妻も単純なもので風邪が治った。旨いものを食べると元気になるのが私の妻の良いところである。東京六本木の重厚なドアを押してはいるケーキ屋の500円以上するケーキはテキメンで、そのケーキで女房の攻撃を何回も回避した。
食卓から望む夕闇の志摩湾も絶景で、扇形である変形した部屋を忘れさせるに十分なロケーションであった。
時が経ち、2016年5月に我々が泊まったホテルで「伊勢志摩サミット」が開催された。
妻に言った。「俺が選んだ新婚旅行のホテルは、世界首脳が集まる場所だった。36年前に俺はそこを選んだ。先見の目があるだろ。」
妻は、何の反応も示さなかった。
(文責:岩澤信千代)