🗓 2023年08月12日
吉海 直人
文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」2018年度の結果が報告されました。今回もまた本来とは違う意味の方を正しいと回答した人が多かったようです。これを日本語の乱れと見るのか、それとも日本語の下剋上(変化)と見るのか、見解が分かれるところですね。
それはさておき、みなさんの国語の認識は大丈夫でしょうか。試しにやってみましょう。まず「憮然として」はどうでしょうか。この意味はA「失望してぼんやりとしている様子」・B「腹を立てている様子」のどちらですか。調査結果はBと答えた人が57パーセントで、Aと答えた人は28パーセント(半分)でした。これを見る限りBが正解のように思われますが、もちろん正しいのはAの方です。大丈夫でしたか。
次に「御の字」の意味はどうでしょうか。A「一応納得できる」・B「大いに有りがたい」のどちらだと思いますか。調査結果はAを選んだ人が50パーセント、Bを選んだ人が37パーセントでした。これも調査結果からはAの方が正解のように思われますが、しかし正しいのはBです。
続いて「砂をかむよう」はどんな意味ですか。A「悔しくてたまらない様子」・B「無味乾燥でつまらない様子」、さてどちらが正解でしょうか。調査結果はAが57パーセントでBが32パーセントで、圧倒的にAが多かったようです。ではAが正解かというと、これもBの方が正解でした。
一度は口にしたことがありそうな「なし崩し」はどうでしょうか。A「少しずつ返していくこと」・B「なかったことにすること」、この調査結果はAが20パーセントでBが66パーセントとなっており、Bが三倍も多くなっています。これはやっかいですね。本来の意味は、借金などを少しずつ返済することでした。それは「なし」が「済し」だったからです。ところがこれが「無し」と誤解されたことで、意味が大きく変容したのでしょう。ここまできたら誤用というより下剋上とするべきかもしれません(間違いにできない)。
同様に「手をこまねく」はどうでしょうか。A「何もせずに傍観している」・B「準備して待ち構える」、これはどちらが正解だと思いますか。調査結果はAが37パーセントで、Bが47パーセントとなっていました。これを見ると正解はBのように思えますが、実はAが本来の意味なのです。
次に「時を分かたず」は案外むずかしいようです。A「いつも」・B「すぐに」とあったら、みなさんはどちらを選びますか。調査では、Aを選んだ人が14パーセントで、Bを選んだ人が67パーセントという大差になっていました。これを見るとBが正解でなければならないはずですね。でも正解はAなのです。もともとこれは辞書に載っていない言い方なので、勘違いしているのかもしれません。「いつも」とするより「時を選ばず」などといった方がわかりやすいかもしれません。
では「檄を飛ばす」はどうですか。A「元気のない者に刺激を与えて活気づけること」・B「自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求めること」、さてどちらが正解でしょうか。調査結果はAが67パーセントで、Bが21パーセントだったそうです。AはBの三倍ですから、間違いなくAが正解のように思えますね。でも正解はBでした。
もう一問、「浮足立つ」の意味はどちらでしょうか。A「恐れや不安を感じ落ちつかずそわそわしている」・B「喜びや期待を感じ落ちつかずそわそわしている」、さてどちらが正解でしょうか。調査結果は、Aが26パーセントで、Bが61パーセントとなっています。この差を見ればBが正解だと思うはずですね。ところがこれも正解はAでした。これだけ誤答が多いのですから、いずれBも正解になるかもしれません。
次に「姑息」の意味は大丈夫でしょうか。A「一時しのぎ」・B「ひきょうな」、さてああなたはどちらを選びますか。これはBを選んだ人が71パーセントで、Aを選んだ人が15パーセントでした。この結果を見ると断然Bが正解のように思えますが、実は間違いで、Aが正解でした。ところが「姑息な人」などという言い方では、どうしてもマイナスのイメージが含まれてしまい、今ではいくつかの国語辞典でも「卑怯な」の意味を添えています。
最後に「ぞっとしない」はどうでしょうか。A「恐ろしくない」・B「面白くない」、さてこれはどちらが正解でしょうか。調査結果はAを選んだ人が56六パーセントで、Bを選んだ人が23パーセントとなっています。これもAが正解のように思えますが、やはり正しくはBでした。これなど「ぞっとする」(怖い)からの類推で、Aが選ばれたのでしょう。ここまで誤答が多いと、Aを間違いにすることは難しくなりますね。現に辞書でもAを掲載するものが登場しています。
もちろんここでは、あえて誤答の方が正解より多かった例をあげているわけですが、こういったものは、いずれ誤答の方も通用するようになるのではないでしょうか。