🗓 2021年11月27日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

前に「関東と関西の違い」を書きましたが、そんな生易しいものではないことを思い知らされました。そこで改めて「きつねとたぬき」をまとめてみました。ここでは「おしることぜんざい」について詳しく考えてみましょう。
甘いものというかあんこの入ったものとしては、「おはぎとぼたもち」・「桜餅と道明寺」もありますね。「おはぎとぼたもち」の違いは「彼岸の「おはぎ」と「ぼたもち」」(古典歳時記)でお話したように内容の相違ではなく、おはぎが古風な女房詞でぼたもちは庶民的な新しい言い方でした。
「桜餅」にも違いがあって、関東では小麦粉の生地をクレープのような薄皮にして、中に餡をはさみます(台東区谷中にある長命寺の桜餅が起源)。一方関西は、道明寺粉で作った餅に餡を入れて包みます。これは一目で違いがわかります。また嵯峨野の琴きき茶屋では、あんの入っていない桜餅が有名です。塩漬けの桜の葉と一緒に食べるのが絶妙です。
一番ややこしいのが「おしることぜんざい」です。ここで注目すべきはこしあんかつぶあんかと、汁気のあるなしです。関西のおしるこはこしあんに決まっています。それに対してぜんざいはつぶあんです。汁気の有無よりもこしあんかつぶあんかの方が重要なのです。ただしぜんざいの方が汁気は少ないようです。大坂法善寺横丁にある夫婦善哉では、明治16年から130年以上も二椀一組の夫婦ぜんざいを提供してきました。法善寺に参詣した人が食べるということで、夫婦円満の祈願も込められています。これももちろん汁気のあるぜんざいです。昭和15年にはこの店を舞台とした小説『夫婦善哉』を小田作之助が発表し、昭和30年には森重久弥・淡島千景主演で映画化までされています。
一方の関東では、こしあんでもつぶあんでもかまいません。汁気のあるものがおしるこで、汁気のないのがぜんざいなのです。そのため関東の人が関西でぜんざいを注文したのにおしるこが出てきたという話があるし、逆に関西の人が関東でぜんざいを注文したら汁気がなかったという話になりかねません。関西では汁気のあるつぶあんをぜんざいと称しているのですから、大きな異文化体験ですよね。
もちろん関東でもこしあんかつぶあんかを使い分けていることもあります。こしあんは御前しるこ(関西しるこ)といい、それに対してつぶあんは田舎しること称して区別しているそうです。では関西で汁気のないつぶあんのことは何といっているのでしょうか。それは亀山あるいは金時と称しているようです。この亀山とは、小豆の産地である丹波亀山の地名だそうです。また関東では、雑煮と同じく焼いた餅をいれますが、関西では白玉を入れるともいわれています。あるいはおしるこにいれるのが白玉で、ぜんざいに入れるのがお餅だともいわれています。
ところでおしるこの起源ですが、江戸時代にあったすすり団子だとされています。ただしこれは和菓子ではなく、むしろ団子汁に近いものでした。当然小豆も甘くはなく、むしろ塩味だったようです。それに白砂糖をかけたものが、いつしかおしるこに変化したのだそうです。ぜんざいの起源は、出雲大社で10月に行われる神在祭で振舞われていた神在もちいが京都に伝わる間にぜんざいに変化したとされています(出典は寛永頃成立の『祇園物語』)。
もう1つの説として、一休禅師に小豆の汁に餅を入れたものを出したところ、「善哉此汁」といって喜んで食べたので、それ以来「ぜんざい」と称するようになったともいわれています。いかがですか、こんな身近なものでも大きな違いがあるのですから面白いですよね。