🗓 2024年05月18日
吉海 直人
みなさん「きらきら星」という曲はご存じですよね。ではその原曲がどこの国のものか知っていますか。日本ではありません。イギリスという答えが聞こえてきそうですが、それよりもっと前、18世紀にフランスで作られた曲というのが正解です。しかも民謡ではなくシャンソンでした。最初は「あのね、ママ聞いてよ」というタイトルだったそうです。
作曲者もわかっており、ジャン・フィリップ・ラモーとされています。この曲には大作曲家モーツアルトも関心を示し、1778年に「きらきら星変奏曲」を発表しています。これもご存じですよね。またサン・サーンスも、「動物の謝肉祭」の中で一部引用していました。
この曲がイギリスに渡ると、ジェーン・テイラーという詩人によって見事に「Twinkle,Little Star」という替え歌に仕立てられました。それがみなさんよくご存じの、
Up above the world so high, Like aa diamond in the sky!
Twinkle,twinkle,little star, How I wonder what you are!
という歌詞です。これが1805年頃刊の『ナーサリーライムズ』に掲載されたことで、その後マザーグースの一曲として世界中に広まっていきました。そのためイギリス原曲だと勘違いしている人が少なくないのです。
その第二次引用もあります。たとえばルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』では、「Twinkle,twinkle,little bat」とか、「Like a tea-tray in the sky」のようにパロディ化されて用いられています。もっとすごいのは、アルファベットを覚えるための歌「ABCの歌」(アルファベットの歌)として再活用されていることでしょう。こちらは1835年刊の楽譜が知られています。
この「ABCの歌」を日本に最初に持ち込んだのは、あのジョン(中浜)万次郎とされています。それは明治になる少し前のことでした。一方の「きらきら星」が日本に伝わったのは、遅れて明治14年のことです。最初は英語の教科書『ウヰルソン氏第二リイドル直訳』(明治14年)に掲載されました。ほぼ同時期に讃美歌の一曲としても伝わっています。当時は訳さずに英語のままで歌われていました。
それが日本語に訳されたのは、大正3年刊『英語唱歌教科書第一巻』(共益社書店)でしょうか。そこには著名な近藤逸五郎(朔風)の訳が掲載されています。それ以後、いくつもの日本語訳が試みられました。現在一般に定着しているのは、
きらきらひかる おそらのほしよ
という武鹿悦子さんの訳です。もっとも私が幼い頃に習い覚えたのは、
おほしさまぴかり ぴかぴかぴかり
という村山寿子作詞の「お星さま」でした。紛らわしいことに、
おほしさまぴかり ぴかぴかぴかり
という篠崎もとみ作詞の歌詞もあります。また、
きらきらほしがおそらをてらす
という歌詞も見つかりました。加えて都築益世作詞・團伊球磨作曲の「おほしさま」という別の曲まであります。ややこしいですね。
さてあなたの覚えている歌詞はどれでしょうか。ここまで歌詞が類似していると、これらは独自の作詞というより英語版の訳詞のバリエーションというべきでしょうか。