🗓 2021年01月24日

同志社女子大学特任教授
吉海 直人

正月の料理の定番である「おせち」と「雑煮」について補足しておきます。最近は「おせち」は作るものではなく、注文して届けてもらうものになりつつあるようですが、みなさんのところはいかがですか。それに対して「雑煮」は、今でも家庭で作られています(売られていません)。
 そもそも「雑煮」はいつから食べられていたのでしょう。調べてみると、古い資料に「雑煮」はなく、室町時代になってようやく出てきます。どうやらそのころは、「雑煮」は貴族の食べ物であり、しかも正月に限ったものではなかったようです。それが武家に広がり、一般庶民に広まり、正月の定番になったのは江戸時代も後期になってからでした(醤油の普及もそんなに古くありません)。
会津若松では、「こづゆ」に餅をいれた「こづゆ雑煮」があると聞きました。私は長崎で生まれ育ったのですが、東京で生活するようになって、「雑煮」がシンプルなおすましだったのには驚きました。それ以前、関東は丸い餅ではなく角餅だというのは、マンガの正月風景で知りました。マンガの中で、焼いている餅が四角く書かれていたからです。さすがにマンガでは「雑煮」の違いまではわかりませんでした。
 次に関西へ来て驚いたのは、京都では白味噌仕立てのやや甘めの「雑煮」だったことです。でもその程度で驚いていては話になりません。というのも、香川県(讃岐)では白味噌の「雑煮」にあんこ餅を入れることがわかったからです。それだけではなく、奈良県では、「雑煮」に入っている餅を出して、きな粉をまぶして食べることがわかりました。また岩手県ではクルミをすりつぶしたタレを添え、それに餅を付けて食べるそうです。
 もちろん何を入れてもいいし、どんな食べ方もいいから「雑煮」なのです(由来は「煮雑にまぜ」ともされています)。「雑煮」に定番も常識も通用しません。ですから中に入れる具にしてもローカル色があります。北海道では鮭を入れるし、広島では牡蠣を入れます。九州ではブリが入っていることもありました。削り節をかけるのか海苔を入れるのかといった違いもあります。まさに「所変われば品変わる」です。
夫婦や友達同士で、どんな雑煮を食べているのか、話し合ってみるのも楽しいかもしれませんよ。私もそうですが、遠方の人と結婚していれば、きっと相手が食べている「雑煮」との違いに驚くはずです。自分だけの狭い世界にとらわれず、いろいろあるということを楽しむ心の広さも必要でしょう。
それでわかったのは、沖縄では「雑煮」を食べる風習がなかったということでした。また本土でも、稲作に適さない山間部では、「雑煮」に餅を入れないで芋や豆腐で代用するところがあるそうです。また北海道は、全国から移住していることで、さまざまな「雑煮」が同居しているといわれています。それだけでなく北前船が寄港するところは関西文化が根付いていて、味噌仕立ての「雑煮」が残っているともいわれています。
 さて、あなたの食べている「雑煮」は味噌仕立てですか、それとも醤油ベースのすまし汁仕立てですか。この分布ははっきりしています。味噌を使うのは関西圏だけで、全国的にはすまし汁だという統計が出ているからです。その理由として、武士は「味噌をつける」(失敗する)ことを嫌ったためだともっともらしいこともいわれています。ただし味噌にも種類があるのと同様、すましにも種類があります。たとえば汁が濁らず透き通っている関東系のものと、汁が濁って透き通っていないもの。私が食べていたのは、透き通っていませんでした。もっと驚いたのは鳥取県や島根県で、見た目は「ぜんざい」としか見えない「小豆雑煮」を食べていることでした(ただし甘くはありません)。
 餅は丸か四角かということですが、もともと餅は丸いものでした。神様にお供えした鏡餅のおすそ分け(お下がり)をいただくことで、豊作や家内安全が込められた縁起のいいものだったのです。これがお年玉の起源でもあります。ところが江戸では手間(効率)と収納を考慮して、平たくした餅を切り分けることを思いついたとのことです。
関ケ原あたりが境界線で、それより東は角餅、西は丸餅とされています。しかも角餅を使っているところは、たいてい餅を焼いて入れるようです。その方が香ばしいし、型崩れしないからです。ところが尾張藩では、餅は白いので「城」の掛詞となり、「城」を焼かれては大変ということで、餅を焼かない風習が残っているとのことです。それに対して丸餅は生のまま煮て柔らかくしていましたが、江戸の焼く風習が取り入れられるようになり、現在では丸餅でも焼いて入れるところが増加しています。
最後に「雑煮」を食べる時、わざわざ「祝い箸」を使う風習はいかがでしょうか。これは箸の両端が細く削られているものです。取り箸のような感じですが、取り箸として使うのは禁じられています。というのも、使わない片方は年神様用だからです。これを使うことは、神様と一緒に食べていることを意味します。そのためにわざわざ柳の木で作られています。箸袋に「家内喜やなぎ」と書かれたりしているのも縁起物だからです。「雑煮」の話題で盛り上がるのも悪くないですね。