🗓 2019年11月02日
G線上のアリア
大学時代のクラス分けは第一外国語によって決まった。今となっては何故だかわからないのだが、ドイツ語を選んだ。クラス名はD2である。Dはドイツ語の頭文字であったと思う。フランス語はFであった。その頃は法学部には入ってくる女子学生は少なかった。クラス50名中4名であった。その中に名門ミッションスクールから来たIさんがいた。私と仲が良かったY君と喫茶店に3人で行くことがあった。「らんぶる」という早稲田通りから少し路地に入ったところである。五木寛之が書いた「青春の門」に出てくるクラシック喫茶店であり、小説を読んだ私は何度か足を運んでいた。入り口横に黒板が置いてある。そこに希望するクラシックの曲名を書けば順番にレコードをかけてくれるのである。Iさんが「G線上のアリア」と書いた。会津の片田舎で育った私にはクラシックの素養は全くない。「G線上のマリア」と私は読んだ。Iさんは「バッハの曲でげー線上のアリア」と読むと教えてくれた。高校時代は吹奏楽部にいたという。田舎出の私と彼女とは育ちが違うなと思いながらたわいもない話をしたが、気が付いたら座った椅子の横のカーテンが燃えていた。慌てて水をかけて消したが、その時私はタバコを吸って手持無沙汰でいたのである。今でも広島県出身者のY君とは、懇意にしているが、彼はうまく会話ができていたのか覚えていない。田舎者の苦い思い出である。ちなみに美人の彼女は実家がおおさかの資産家である新聞記者と結婚をし、現在は孫の子守を至上の喜びとしているという。
(文責:岩澤信千代)